法政大学イノベーション・マネジメント研究センターのシンポジウム「海外のジャイアントに学ぶビジネス・エコシステム」では、日本における電子半導体産業の未来を考えるシンポジウム「海外のジャイアントに学ぶビジネス・エコシステム」を開催。半導体露光機業界で日系企業がオランダのASMLに敗れた背景や理由について解説した。
法政大学イノベーション・マネジメント研究センターでは、日本における電子半導体産業の未来を考えるシンポジウム「海外のジャイアントに学ぶビジネス・エコシステム」を、2018年2月2日に市ケ谷キャンパス(東京都千代田区)で開催した。講演で登壇した法政大学 経営学部教授 イノベーション・マネジメント研究センター所長の田路則子氏は「露光機業界におけるプラットフォーム戦略」をテーマに、オランダのメーカーASMLが、日系メーカーのニコン、キヤノンに競り勝ち、シェア拡大を実現した背景について紹介した。
半導体露光機は大きなガラス板に複雑で微細な電子回路のパターンを描いたフォトマスクを、極めて高性能なレンズで縮小して、シリコンウエハーと呼ばれるシリコンの板の上に塗布した材料(フォトレジスト)に強いレーザー光を照射して感光させる装置だ。内部は光学、機械、化学、ソフトウェアなどのハイテク要素技術が統合され「半導体製造の工程で最も重要な部分を担っている」(田路氏)ともいわれ、2トントラック程度の大きさがある。
現在は、先端の微細化プロセスに用いられるDUV(深紫外光)タイプの装置で、年間200〜300ユニットが限られた市場に出荷されている。価格は最新機種で60億円程度であることから、デバイスメーカーにとっても購入に関しては慎重な意思決定がなされる場合が多い。製品開発競争も激しく2年ごとに新しいモデルが開発されており「新興企業が市場に参入するのは、巨額な設備投資が必要なこともあり大変難しい製品でもある」(田路氏)という。
現在、半導体露光機メーカーとして残っているのは、日系企業であるニコンとキヤノン、そしてオランダのASMLの3社である。ニコンとキヤノンは世界的にも有名なカメラメーカーであり、一方のASMLは、1984年にオランダのフィリップス(Philips)の1部門とASM International(ASMI)がそれぞれ出資する合弁会社として設立された。「ASMIが商社だったこともあり、調達力が優れている点が特徴だ」と田路氏は述べる。その特徴の違いが結果として、現在の状況を生み出しているといえる。
2000年以前、先端微細化プロセス向けの半導体露光機市場におけるシェアは、ニコンがASMLを上回っていた。しかし、徐々にASMLが拡大し2010年頃にはASMLがシェア約8割、ニコンは約2割と立場が大きく逆転した(キヤノンは早い時期に先端微細化プロセス向け市場から撤退している)。半導体露光機は究極のすり合わせ型製品であり、それは、日本企業が得意とする分野である。しかし、ASMLのモジュラー(アーキテクチャ)は、ニコンのインテグラル(アーキテクチャ)を凌駕(りょうが)することとなった。
その後、半導体露光機のアーキテクチャは大きな節目であるアーキテクチュラルイノベーションを迎えた。カギとなったのは、同時に2つのウエハーステージを扱うツインスキャン技術だ。さらに、解像度を向上させる液浸の技術も課題となった。
その際にASMLはスムーズにアーキテクチャを変更した。ニコンも同じアーキテクチャを指向したが停滞したという。この差については、企業の成り立ちや体質、また顧客層などにあったと田路氏は分析している。
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