和田氏 現在話題となっているモビリティのサービス化、MaaSについてどう考えるのか。
末光氏 これに関して言えば、コピー機やプリンタと同じ考えであり、クルマを売るビジネスから利用するビジネスに変わる過程ではないだろうか。今はまだクルマを売って利益を得るビジネスであり、ある意味古いビジネスモデルといえる。
建築と似ていて、豊かさの象徴は家や家電などを保有し独占するという考え方であったが、シンガポールなどでは土地は国のものであり、自分のものでなく借りるという考え方が根付いている。だからもっとフローが起きるのではないか。
さらに、今の若い人はお金持っていないので、シェアするしかない。シェアというのは、ある種、社会的弱者のモデルでもあり、自分だけで物事が成り立たない時に、自立して生きていくためにシェアするしかない。日本経済が強くて右肩上がりで、個人個人で生きていけるモデルであれば良いが、日本が弱体化していくとシェアするしかない。まだ自動車産業は昔のビジネスから脱却できていないのではないか。
和田氏 最近日本でもMaaSが話題となってきている。ではモビリティも含めた新しい街づくりをしようとすると、なにが障害となるのか。
末光氏 さきほども言ったけれど、日本では規制が多く、縦割り社会が強いので、それが大きな障害となっている。それはより状況が深刻で、追い込まれなければ変われないのではないか。そのため、傾斜地や過疎地等、より切迫した状況を解決する中で、このような改革が起こるのではないかと思っている。
前回の連載のMaaS第1弾では、モビリティのサービス化によりユーザーの利便性が向上し、それが都市交通にまで及ぶことを論じた。しかし、筆者はもっと先があるのではないかと考えた。それが今回の、モビリティと街づくりに関するMaaS第2弾である記事につながった。今回のインタビューを通じて、モビリティのサービス化には2つの流れがあるように思える。
(1)既存の都市・街の場合
モビリティのサービス化 ⇒ ユーザーの利便性向上 ⇒ 都市交通の見直し・最適化
(2)新しい地域・街づくりの場合
地域・街づくりの最適化 ⇒ ふさわしい都市交通の開発 ⇒ふさわしいモビリティの開発およびサービス化
つまり、既存の都市・街では、これまで培った経験やアセットをベースとして、モビリティのサービス化、ユーザーの利便性向上、さらには都市交通の見直しや進化が進む。しかし、この変化にはおのずから限界がある。
一方、新しい地域・街づくりを考えるのであれば、発想が自由となり、末光氏やパナソニックが提唱する「次世代ローカルコミュニティー」など、いろいろな形が想定できるであろう。
今回の取材を通じて、モビリティのサービス化と一言でいうことができるが、調べれば調べるほど、単なる自動車、電車、バスなどのモビリティ変化にとどまらず、人々の住む都市・街の在り方までも変革していく可能性を秘めている。それだけに、この動きは今後も長くて大きなトレンドになるのではないだろうか。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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