前回に引き続きMaaS第2弾となる本連載。公共交通機関やレンタカー、タクシー、レンタサイクルなどを組み合わせて、人の移動をシームレスに行うサービス、「MaaS(Mobility as a Service)」という言葉が日本でも話題となっている。では、MaaSが普及すると、モビリティと街づくりの関係はどう変わるのであろうか。今回は先進的な検討を進めている関係者に話を聞いた。
今回は、前回に引き続きMaaS(Mobility as a Service:マース)を取り上げる。MaaSは、公共交通機関やレンタカー、タクシー、レンタサイクルなどを組み合わせて、シームレスにできるサービスとされている。では、今後MaaSが普及すると、モビリティと街づくりの関係はどう変わるのであろうか。
最初にモビリティ事業開発および地域課題を解決するモビリティについての検討を福井県永平寺町と連携して進めているパナソニックの柳沼裕忠氏にお話を伺った。
和田憲一郎氏(以下、和田氏) パナソニックは、2018年CESにおいて「2030年のくらしへのお役立ち(ビデオ)」で未来のモビリティ社会を発信していた。これまでのオートモーティブ事業に加え、新たにモビリティ事業への取り組みを模索し始めていると聞いている。パナソニックが考えるモビリティとはどのようなものか。
柳沼氏 パナソニックはさまざまな製品を通してそれぞれの国のくらしに寄り添う事業を展開している。国ごとに暮らし方は違っており、地域の課題を理解することが重要と考えている。これからのモビリティというのは、地域課題を解決する手段として使われるようになっていくと考えている。つまり、現在の車載事業とは異なる役割が求められるのではないかという仮説を立てている。
車載事業は、自動車メーカーに対してビジネスをするモデルであったが、モビリティのビジネスモデルは、移動という価値で、社会や住宅、家電、B2Bのビジネス、街などとつながると考えている。
和田氏 ではモビリティと街・地域の関係で、課題はどのようなところにあるのか。
柳沼氏 街などの生活圏の移動に最適なモビリティは、環境負荷や低速移動といった観点から電気自動車(EV)が向いているのではないかと考えている。しかし、クルマの所有を前提にしたビジネスモデルでは、われわれが考えるようなEVはユーザーから選ばれない。
このため、EVが街や地域のモビリティの主役になるようなビジネスモデルを構築することが課題と考えている。また、Uber(ウーバー)に代表されるようにライドシェア、貨客混載、自動運転などをやろうとすると国土交通省や警察庁などの規制とも調整が必要になる。ビジネスモデルの構築と同時にモビリティに関わる国内の制度を変えていくことも課題だと思っている。
和田氏 では、なぜパナソニックはモビリティ・街づくりに着目するのか。
柳沼氏 後に出てくる福井県永平寺町の事例であるが、永平寺町内のモビリティに関連するマネーフローは野村総合研究所の試算によると年間約27億円となっている。これは各世帯が所有する自動車やガソリン代、保険代、公共交通で提供されるバスの車両や燃料代、運転手の人件費などを合算した数字である。
例えば、このマネーフローの中で当社の車載事業が関連している規模は恐らく6000万円ほどだろうと思う。一方、仮に永平寺町でモビリティサービスを行うとすれば、事業の対象は先ほどの約27億円のマネーフローとなる。事業の質が違うので比較は難しいが、車載事業でとり込める事業規模とモビリティ事業でとり込める事業規模は大きく違う。
またモビリティ事業はビジネスモデルの設計次第で、ユーザーから利用料をいただくような仕掛けも作ることができる。ハードウェアを売り切ってしまう事業とは違うため、当社においては新しいビジネスチャンスとして期待できる領域と考えている。
どこで実施するかについては、スマートシティーといわれる街への展開などが想定される。スマートシティーについては当社でも幾つかの地域で推進しているが、まだモビリティ事業を取り込んだスマートシティーは実現していない。当社が取り組んでいる永平寺町の場合は、高齢化による移動弱者の増加や鉄道の廃路線化などが起こっている地域で、移動に関する困りごとが多い地域となっている。
こういった街の困りごとを解決するモビリティを提供するビジネスは、街やその地域の行政や事業者と一体で解決策を考えていく必要がある。こういった経験を次の街づくりやモビリティ事業に生かしていくことが重要と考えている。
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