こうしたIoTの活用で最も分かりやすい使い方として工程ごとのトレーサビリティーがあります。各工程を通過した際の情報をIoTによって自動的に収集し一元的に管理することでどの工程でワークがどういう状況にあるのか把握することが可能となります。従来はロット単位の管理でしたが、IoTなどの技術を活用することで個体管理などが可能となります。
なるほど。そういうアプローチで考えればよいんですね。
そうね。トレーサビリティー強化という点で考えると、さっき質問にあった品質問題の「ガバナンスの課題」への対応の1つの解決策ともいえるかしら。
日本では製造現場における情報管理が、「紙による記録+人手での入力」に頼るところも多いように見ています。しかし、欧米の製造業ではトレーサビリティー確保には改ざんが行いにくく過去を振り返って追跡可能なデジタルデータによる管理が主流となりつつあり、日本のサプライヤーにもそういう対応を迫る要求は高まってきています。こうした流れを踏まえると、IoTによる品質対策としては、トレーサビリティーの範囲や精度、頻度などを高めて、個体のライフサイクル管理が行えるようにしていくという方向性が重要になるのではないでしょうか。
さらに、製造業の将来像を考えると各工程での検査が必須となり、そのためには検査工程を自動化していくことが重要となります。
将来的には検査の自動化領域拡大が製造業の「品質」にかかわるところでは大きなポイントになるんじゃないかしら。
ど、どういうことですか?
ドイツのモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」などで求められている製造現場の理想像は、カスタム製品を大量生産の効率で作る「マスカスタマイゼーション」です。これを実現するためには、物理的な製造ラインもフレキシブルに変動する世界が必要となります。
製造ラインが工程ごとにバラバラに存在し、その間を製品が無人搬送車などを活用して自由に動き回るという世界となります。しかし、これらの工程独立完結型の製造工程を実現するには、各工程での検査などが必要となります。そのためには検査工程の自動化も求められているという流れとなります。
現状では、検査工程は製造現場の中でも人手による作業が非常に多く残っている領域となります。それは高精度なセンサーを備えつつ複数作業もこなし、さらにコストも安いという人の優秀さを示す状況でもあるのですが、先述した理想の姿を実現するには、人手だけでは難しくなります。
それを自動化できるようにしていくということが今後必要になってくるというわけです。これも従来は技術的なハードルがあって難しかったのですが、AI関連技術の発展により、画像や音声など非構造化データを活用し高精度の分析や判断ができるようになったことがブレークスルーとなりつつあります。
先ほどのトレーサビリティーにおける個体管理と組み合わせることで、個体差などに応じた用途や出荷先などを選ぶことなどもできるようになるかもしれません。そうなると品質に応じて、価格を変更するようなことも従来に比べてはるかに容易になるでしょう。スマートファクトリー化やそれに伴う検査自動化の先にはこうした新たな価値も眠っているといえます。
さて今回は、第4次産業革命と品質の関わりについてまとめてみました。このテーマは今後も情報がまとまり次第お伝えしていきたいと考えております。
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