リアルワールドエビデンスに基づく医療機器開発の時代へ海外医療技術トレンド(28)(3/3 ページ)

» 2017年10月13日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]
前のページへ 1|2|3       

資産としてのリアルワールドデータ保護対策が課題に

 このように、医療サービスの質の改善、医療製品の承認申請/市販後安全対策など、さまざまなシーンにおける利活用が期待されるリアルワールドデータだが、米国の場合、「医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA:Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996)」に規定された「保護対象保健情報(PHI:protected health information)」に該当する情報が多く含まれている。このような機微情報を取扱うHIPAAの適用対象主体(CE:Covered Entity)および外部委託先の事業提携者(BA:Business Associate)に対しては、セキュリティ/プライバシー規則に基づく責務の順守が課せられる。

 また、本連載第19回で取り上げたように、医療機器製造者が個々の機器から収集/保存/提供する患者固有情報の取扱いに関して、FDAは2016年6月10日、「機器からの患者固有情報の機器製造者による配布 -業界および食品医薬品局スタッフ向けガイダンス草案」(関連情報、PDFファイル)を公表している。

 このようなデータ活用の動きは、医薬品分野でも本格化している。参考として図2に、欧州医薬品庁(EMA)が示したリアルワールドエビデンスのライフサイクルの概念を挙げておこう(関連情報、PDFファイル)。

図2 図2 リアルワールドエビデンスのライフサイクル(クリックで拡大) 出典:European Medicines Agency「Update on Real World Evidence Data Collection」(2016年3月10日)

 万一、セキュリティ/プライバシー対策に不備があった場合、リアルワールドデータの妥当性や信頼性に影響が及び、リアルワールドエビデンスの根拠を揺るがすような事態を招く可能性がある。また、さまざまなソースから患者関連データを収集して、クレンジング、構造化、匿名化・非識別化などの処理を施したリアルワールドデータは、データベースの著作物として知財保護の対象となるので、統合的資産管理の視点に立った棚卸し/ライフサイクル管理も必要だ。

 例えば、英国では、ロイヤル・フリー・ロンドンNHS財団トラストが、傘下の医療機関のリアルワールドデータ約160万件をAI(人工知能)開発企業であるGoogle DeepMindに提供し、急性腎障害(AKI)向け警告・診断・検知システム(医療機器に該当)の臨床試験を実施した事案に対して、2017年7月3日、情報コミッショナーオフィス(ICO)が、患者データの利用に関するインフォームドコンセントプロセスの不備を理由に、英国1998年データ保護法違反があったと判断している(関連情報)。

 現在、日本でも、医療分野のAIアルゴリズムの学習用データセットとして、リアルワールドデータ利活用への期待が高まっているが、知財としてのデータ価値評価、データライフサイクル管理に関わる費用負担など、解決すべき課題も多い。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

Twitter:https://twitter.com/esasahara

LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/esasahara

Facebook:https://www.facebook.com/esasahara


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.