それでは機械材料として使われる主な伸銅品の特徴を見ていきましょう。
伸銅品は切削性が良く、加えてアルミニウムと同じく磁性を帯びない特徴を持っています。そのため、精密部品や歯車など、切削加工によって製作する部品によく使われていますし、磁気厳禁な精密機器や測定器の部品には欠かせない材料です。しかし鉄鋼材料やアルミニウム合金と比べたらかなりお高い材料ですから、むやみやたらにポンポン使うのではなく、導電率や熱伝導率など、伸銅独自の優れた特徴を生かしたい部品を作る場合に限って用いるようにします。
伸銅のJIS記号もアルミニウムと同じように、Copper(銅)の「C」を頭に付けた1000〜7000番台までの下4桁の数字で表します。これらのうち機械材料に用いられる代表的なものが、1000〜3000系に属する「純銅」と「真ちゅう」です。下の一覧表では、アルミニウムと同じく主な用途も挙げてみたので参考にしてみてください。
1000系に分類される純銅は、含まれる酸素の量によって種類が分けられ、最も数字が若い「C1020」は無酸素銅と呼ばれる純度99.96%以上の純度が最も高い銅です。次いで「C1100」のタフピッチ銅が汎用的な存在ですが、この純度は規格上で99.90%以上とされています。まず、純度が高い銅ほど導電性と熱伝導性が高いと覚えておきましょう。
2000系に分類される真ちゅうは銅に亜鉛を加えたもので、その比率によって1種、2種、3種に分かれます。1種は銅70%と亜鉛30%の「70/30黄銅」、2種は銅65%と亜鉛35%の「65/35黄銅」、3種は銅60%と亜鉛40%の「60/40黄銅」となります。1種と2種がプレスの絞り加工向きなのに対して、3種は切削加工でも用いられます。主な品種は「C2801」。そして、3種(60/40黄銅)の切削加工性を高めたものが「快削真ちゅう」となり、これは3000系に分類され、機械材料としての出番が多い品種です。よく登場するのが「C3604」です。アルミニウム合金の「A5052」と併せて、この品種もぜひ覚えておきましょう。
なお、真ちゅうは銅の比率が小さくなるにつれて強く、硬くなる傾向です。ただし銅が60%を割り込むと逆に脆くなるので、銅60%以下の真ちゅうは機械材料としては存在しません。銅鋳物の材料になります。
その他の系統については参考としてざっくり紹介します。4000系には、強度が高く海水に強い、船舶用部品向けの「ネーバル黄銅」が所属します。
5000系に所属するのは「リン青銅」です。耐食性と耐摩耗性に優れているのに加えてバネ性が高いので、板材はスイッチの接点によく使われますし、切削材料では、鉛を添加して切削性を向上させた「快削リン青銅」も用意されています。
6000系には、強靭で耐摩耗性と耐食性が高い「アルミニウム青銅」が所属します。
7000系には、「洋白」が所属します。銀にも似て光沢が美しく、加工性では特に絞り性に優れているので洋食器の材料に使われることの多い合金ですが、鉛を添加して切削加工性を高めた「快削洋白」もあります。
次回以降の記事で補足はしていきますが、前回の鉄鋼材料と今回の非鉄金属材料までで金属材料の要点はほぼカバーできると思います。
次回は“金属に非ざる”材料である「プラスチック」に触れてみたいと思います。
引き続き、よろしくお願いします。(次回に続く)
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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