HILSとプラントモデル(その3):いまさら聞けないHILS入門(7)(4/4 ページ)
発電機のプラントモデルは、システムへの入力変化を反映して、ここまで説明した方法でサイクルタイムごとにシステム状態を変化していきます。この環境でエンジンECUがどのように働くかを考えましょう。
前項のようにエンジン回転数が低下減速した場合、燃料噴射式ガソリンエンジンは、ECUが制御しないで噴射量が同じままであれば、エンジントルクはあまり変化しません。連載第6回の図2(c)の燃料噴射量トルクマップを適用すると、3000rpmで13Nmだったトルクは徐々に減少し、600pmでは10Nmにまで低下します。そのまま放置すれば、回転数はさらに低下してエンストしてしまいます。
エンジンECUの以下の働きによって、発電機−エンジンシステムは一定回転数の運転を行います。
- エンジンECUは、コントロールスイッチ(SW)のポジション(OFF、50Hz、60Hz)を検出して目標回転数を決め、回転センサーにより回転数を検出して目標回転数との差を測り、この差を0rpmとするように制御する。例えば、コントロールSWのポジションが50Hzであれば、目標エンジン回転数は3000rpmとなる
- 発電機出力が当初4kWで定常運転していたものを6kWに増加すると、前項の通りエンジン回転数が回転加速度−46.7(rad/sec2)で減速し、目標回転数の3000rpmから差が生じる
- エンジンECUは、この回転数差を検出して、差をなくすように燃料噴射量を増加させてトルクを増大し、回転数を制御目標の3000rpmに戻すように作動する。燃料噴射量を増加させるロジックは、ECUの制御ロジックの最も重要な機能の1つ。回転数の差に比例して燃料噴射量を増加する方法はその一例で、比例制御と呼ばれる最も基本的なロジックである
- 発電機にとって周波数が変化することは好ましくないので、発電機エンジンECUは、回転数の変化ができるだけ小さくなるような制御特性を持たせている。図6のガバナー特性が、その一例である。ガバナー特性は、設定入力と負荷の状態に対してあるべき回転数を示している。図6では、コントロールSWの設定値は、OFFと50Hz、60Hzの3条件のみである。OFFの場合は、600rpmのアイドリング状態に、50Hzの場合は3000rpmで、60Hzの場合は3600rpmで一定回転となるように制御する。電気負荷を増加すると一時的に回転数が減少するが、すぐに青破線に沿って3000rpmに復帰するように制御する
- 回転数の変化を小さく、復帰するまでの時間を短く、安定状態に復帰後に50Hzからの偏差を小さくすることがガバナーに求められる性能で、ECUの仕様要件の重要なアイテムとなる
図6 発電機用エンジンのガバナー特性(クリックで拡大)
蛇足ですが、ガバナーについて一言。
エンジンは、発電機以外にも、自動車、飛行機、建設機械、農業機械、ポンプなどに広く使用されており、システムによって求められる特性が違っています。それらの特性を実現するのがガバナーです。ワットの蒸気機関に始まる機械式ガバナーの時代から、エンジンだけでなく、蒸気機関、蒸気タービン、ガスタービン、モーターなど全ての動力機械が、過回転によって壊れるのを防止したり、一定回転数を保持するなどシステムに適した制御特性を実現してきました。
これを電子システムで実現したものが、電子ガバナーと呼ぶECUの中核の機能です。HILSの目的は、ECUの機能と性能をテストすることですから、ガバナー機能を発揮させるようにプラントモデルを作りこむことが重要です。
ここまで、HILSを構成する各種要素をどのように作るかを説明してきました。
次回は、HILSが正しく作動するために、これらの要素をどのように組み込んで、確認、調整していくかを考えたいと思います。
高尾 英次郎(たかお えいじろう) 「HILSとTestの案内人」
1950年生まれ。岐阜大学機械工学科卒業。三菱重工で大型船のエンジン・推進装置などの修繕業務を担当の後、三菱自動車(現三菱ふそうトラック・バス)に転籍。エンジンの燃費向上・排出ガス低減研究、車両の燃費向上研究を10年余および電子実験、電子設計などを20年余担当。ITKエンジニアリングジャパンを経て、現在はHILSとHILS Testにフォーカスしたコンサルティングを行っている。
HILSとの関わりは、バス用の機械式自動トランスミッション開発中に、ECUのソフト検証用として1990年にMS-DOS PCを使ってHILSをゼロから自主開発して以来のもの。
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