芽吹くか「組み込みAI」MONOist 2017年展望(2/2 ページ)

» 2017年01月10日 14時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
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キーワードは「AIの多様化」と「AIチップ」

 国内製造業が優位性を維持している自動車や産業機器の分野では、IoTとAIの組み合わせにおいてより厳しい遅延時間の抑制が求められている。

 2017年からは、この厳しい基準を満足できるような、エッジノードやセンサーにも組み込めるようなAI技術が脚光を浴びるようになるだろう。この「組み込みAI」の実現に向けたキーワードが「AIの多様化」と「AIチップ」だ。

 まずAIの多様化では「GPGPUを用いたディープラーニング」以外の手法の検討が進むだろう。

 AI=ディープラーニングと思われがちだが、他にもさまざまな手法がある。富士通によれば、既存知を構造化するグラフ構造データを用いたAI技術の開発に注力しているが、ディープラーニングはグラフ構造データを分析するのには不向きだという(関連記事:富士通が量子コンピュータ超える新AI技術、グラフ構造データへの深層学習適用も )。AI技術を進化させていくためには、ディープラーニング以外の手法も検討を進める必要がありそうだ。

富士通の考える将来のコンピューティング 富士通の考える将来のコンピューティング。AIはさまざまな技術を経て進化し、最終的に脳型コンピューティングに収束するとみている(クリックで拡大) 出典:富士通研究所

 とはいえ、画像認識や自然言語処理を筆頭にディープラーニングは極めて有効なAI技術だ。そこでこのディープラーニングをより組み込みやすくするために、GPGPUを用いないディープラーニングの技術開発が加速するだろう。

 現時点におけるGPGPUを用いたディープラーニングの課題は極めて高い消費電力だ。リソースが限られているため、できる限り消費電力を押さえる必要があるセンサーやエッジノードに、ディープラーニングに対応するGPUを搭載するのは困難とみられている。

 そこで、GPUではなく、一般的なARMやIntelのプロセッサ、FPGAなどでディープラーニングのアルゴリズムを処理できるようにする取り組みが加速するだろう。既に三菱電機やデンソーなどが開発成果を示している(関連記事:三菱電機の人工知能は「エッジに賢くコンパクトに載せる」)。

三菱電機の人工知能に対する取り組み 三菱電機の人工知能に対する取り組み。クラウドではなくエッジにコンパクトなAIを搭載する(クリックで拡大) 出典:三菱電機

 ただしこれらのディープラーニングは、GPGPUなどを用いたディープラーニングによって導き出したアルゴリズムを、GPUを使わずに低消費電力で実行するためのものだ。機械学習が行えなかったりするので、本来的な“人工知能”という意味でのAIとは言い難い。

IBMの「TrueNorth」 IBMの「TrueNorth」 出典:IBM Research

 AIチップは、この本来的な人工知能としてのAIを組み込む上で必要不可欠な要素技術である。ノイマン型コンピュータである従来のプロセッサに対して、AIチップは脳神経回路をモデルとする非ノイマン型コンピュータだ。IBMが2014年に発表した「TrueNorth」の他、Googleが開発した「TPU(Tensor Processing Unit)」などがある。

 AIチップはディープラーニングに求められる並列処理を、従来のプロセッサよりも大幅に効率よく実行できる。さらに、最先端の半導体の微細化技術を使わずに製造できる点も大きなメリットになる。実用化時期は2017年ではなく、少なくとも2020年以降になる見通し。とはいえ、ほぼ終焉した「ムーアの法則」を超える半導体として今後も開発は加速していきそうだ。

 AIチップの開発は、先述した海外勢が先行しているが、国内勢の取り組みも始まっている。NECは東京大学、大阪大学などと共同して、脳型コンピューティングを消費電力10Wの次世代AIで実現するための取り組みを発表している。次世代AIの実現時期は2027年以降だが、そこで用いるAIチップの要素技術である「ナノブリッジ」については、小規模FPGAの試作による動作実証を完了している(関連記事:脳を模倣したAIチップをNECと東大が実用化、総合的提携の一環で)。

 デンソーもAIチップの開発に取り組んでいる。AIチップの要素技術の有力候補であるメモリスタを実装したチップを試作済みだ(関連記事:デンソーがクルマに載せられるAIの開発に注力、「かなり早めに出せる」)。

NECが披露した「ナノブリッジ」FPGAによる画像圧縮のデモデンソーがカリフォルニア大学サンタバーバラ校と共同して試作したメモリスタのチップ NECが披露した「ナノブリッジ」FPGAによる画像圧縮のデモ(左)。従来のプロセッサによる画像認識と比べて実行時間、消費電力とも50分の1を実現した。デンソーがカリフォルニア大学サンタバーバラ校と共同して試作したメモリスタのチップ(右)(クリックで拡大)

 また、半導体最大手であるIntelは2016年11月に開催した「AI Day」において、既存のIntelアーキテクチャもディープラーニングに有効であるとともに、ディープラーニング専用のIC「Lake Crest」や「Knights Crest」などの投入を予告した。これらは、AIプラットフォーム「Nervana」として展開していくことになる(関連記事:インテルアーキテクチャもディープラーニングに有効、「GPUが最適は先入観」)。

 GPGPUのディープラーニングで先行したNVIDIAも、今後「組み込みAI」に向けた取り組みを加速させる。民生機器テクノロジーの展示会「CES 2017」(2017年1月5〜8日、米国ネバダ州ラスベガス)では、アウディ(Audi)との間で、2020年に最先端のAI搭載自動運転車を路上走行実現に向けた共同開発を進めることを発表した。

 自動運転車は、短い遅延時間と低消費電力という、現時点におけるAIの課題解決を求められるアプリケーションだ。「組み込みAI」を試す壮大な実験場になるだろう。

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