NECと東京大学が基礎研究から人材育成、社会実装まで及ぶ総合的な産学連携に合意した。第1弾として脳の構造を模したAIである「ブレインモルフィックAI」の実用化と社会実装を進める。
NECと東京大学は2016年9月2日、総合的な産学連携を本格的に開始したと発表した。具体的な取り組みの第1弾として「NEC・東京大学 フューチャーAI 研究・教育パートナーシップ協定」を結び、AIを活用しての社会問題解決、日本の競争力強化を狙う。
合意した提携はNEC 社長の新野隆氏(代表取締役 執行役員社長 兼 CEO)が「産学連携ではなく“産学協創”」と表現するよう双方が深く関わるものとなっており、両者経営層が直接運営に関与し、NECからは億円規模の研究開発費が投じられる。東京大学は2016年4月に発足した産学協創推進本部を中心にし、文理融合での社会実装体制を整える。
その範囲は基礎研究から社会実装、人材育成、倫理および法制度整備への検討などまで含まれる広大なものとなっている。2015年4月に東京大学総長に就任した五神真氏は同年10月に発表した「東京大学ビジョン2020年」にて「価値創造から社会実装へ」を大きな目標の1つとして掲げており、より広範な研究開発を行いたいNECと、社会実装を推進したい東京大学の思惑が一致した格好だ。
第1弾の取り組みであるAI戦略協定では、複雑系計算の第一人者である東京大学の合原一幸教授を中心に、NECからの人材も含めたトップレベルの研究者を集め、合原教授が研究を進める脳の構造を模したAIである「ブレインモルフィックAI」の実用化と社会実装を進める。
ブレインモルフィックAIは脳の電気活動を模倣したアナログ回路を作成、高い電力効率を持つAI処理機能を実現しようとする試み。既存AI技術のほとんどは膨大な計算能力のうえに成り立っているが、その計算能力を供給するデータセンターは大量の電力を消費する。その一方で人間の脳は電力でいえば20ワット相当で動くといわれており、AIという成果を得るために根本的なアーキテクチャを見直し、AI技術の広範囲な実用化を狙う。
ブレインモルフィックAI技術を用いて作成されたAI機能はチップなどのハードウェアとして、自動車は各種のIoTデバイスなどへ搭載されることを見込んでおり、実用化の際には既存方式のAI技術実装に比べて、1万倍以上の電力効率アップが実現される見込みだ。
NECは人工知能関連事業強化の一環として2020年をめどに関連人員を1000人に増員する計画を進めており、超低消費電力動作の非ノイマン型コンピュータの開発にも取り組んでいる。非ノイマン型コンピュータ開発については、既に独自開発ではなく外部研究機関との共同で進めることを明らかにしており、東京大学との取り組みはこの一環といえる。
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