特別講演に登壇したデンソーのDP-Factory IoT革新室長の加藤充氏は「人と設備が共創するグローバルなモノづくり」をテーマに、デンソーが考えるICTを活用した新たなモノづくりの姿を紹介した。
ICTを活用した新たなモノづくりの動きが広がる中、加藤氏が強調するのが「人の価値」である。
「過去の歴史を見たとき、言語の誕生や海運の発達など『個人の社会的流動性』が高まることによって文明は発達してきた。そういう意味ではIoTを含むICTの高度化は避けられない流れだと捉えている。この新たな基盤をどのように使いこなしていくかということが重要である。ただ、一方でデンソーはこうしたICTの専門家ではない。サイバーの世界についてはオープンなシステム構築を推進し、それを『どう人の活動に生かすか』という点を重視していく」と述べている。
こうした考えのもと、デンソーが取り組んでいるのが「ダントツ工場」である。生産ラインの高速や高稼働化、コンパクトな独自設備開発、物流や検査のスリム化などに取り組むことで、ダントツの原価でモノづくりをできる工場である。具体的には、世界一の製品、世界一のライン工場、売れるスピードに合わせた生産、ラインリードタイムの短縮、停滞やよどみのないリーンな生産活動、改善が進む現場などの活動を実現することで、部分最適ではなく全体のリードタイムを削減することをターゲットに据えている。
こうした「ダントツ工場」を実現するためにポイントになるのが「ダイバーシティ(多様性)」である。デンソーは多種多様な製品を展開しており、また世界中に拠点があり製品展開を行っており、生産現場や設計現場には、多彩な人々や環境がそろっている。ダントツ工場を実現していくには、こうした多種多様な世界に展開する工場から得られるさまざまな情報や、そこで働く従業員の知恵を集約し、分析することが必要になる。この多様性を結ぶ仕組みとしてICTを活用するということである。
加藤氏は「世界中の生産ラインの仲間が1つ屋根の下にいるかのごとく、状況判断、知恵を結集、活用し、人の成長や創造性を最大化することが『ダントツ工場』の実現への道である」と述べている。
こうしたダントツ工場を実現するFactory IoTとしては「3つのチェーンをつなぎ、改善していく」(加藤氏)。3つのチェーンとは、開発から量産までのエンジニアリングチェーンと、サプライチェーン、工場内のファクトリーチェーンである。「工場は生き物である。変化を捉えて、事後アクションをできるだけ早め、未然防止化を推進する。また同時にエンジニアリングチェーンによるコト情報を、より正確にモノに転写する仕組みを実現できるかということも重要だ」と加藤氏は述べている。
これらを実現するIoTとしては主に「生産準備IoT」と「工場管理IoT」を推進する。「工場管理IoT」としては「まずやるのは1つ1つの工場を見えるようにして、ボトルネックをつぶしていく。止まらない理想の工場にするのにまず情報を使い、個々の工場の成熟度を高めていく。そして、有益な情報が得られるようになったところで、それぞれを結んでいく」と加藤氏は考えを述べている。具体的には、デンソー内の全事業部で、コンテンツの定義やつながり度、解析深度などを指標としてレベリングし、事業部の立ち位置を明確にして情報連携を進めているという。
こうしたFactory IoTの具体的な取り組みの1つとして「1/N設備化」がある。1/N設備化は、従来の大量生産の論理で導入された大規模な生産設備を、ロットサイズやサイクルタイムに合わせて最適な生産量でコンパクトな設備に置き換えていく活動である。従来は大量に一気に作ったほうが効率が良いという考え方だったが、全体のリードタイムを考えた場合、前工程や後工程との生産サイクルが一致させられない場合は、機械の稼働率低下や仕掛り在庫の増加が生まれることになる。ICTを活用することでこれらの前後の工程と合わせることが可能となり、過剰な設備が必要なくなり、コンパクトな設備で運用することが可能となった。
加藤氏は「あくまでも取り組みのベースラインは人である。人がいかに情報に気付き、問題の源流を探り改善を行えるかということが重要だ。機械からの情報をループさせるのではなく、人と設備が共存し、むしろ熟練技術者の知見を機械に注入するような『M2H2M』のような仕組みが理想だ。システムリッチなIoTはやるつもりはない。仕事リッチなIoTを進めていく」と強調する。
加藤氏は「現場自体が悪い情報しか上がってこないような状況であれば、いかに良いシステムを構築しても新しい価値は生まれない。IoTの本質はいかに現場を良質に保つかということだと考えている。こうしたことを実現するには、現場の人や志が重要だ。良質なサイクルが実現できるようなIoTの活用を進めていく」と述べている。
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