IoT活用サービスの成功事例として真っ先に上げられるのが、コマツの機械稼働管理システム「KOMTRAX(コムトラックス)」だろう。さらに同社は「スマートコンストラクション」や「KomConnect」などによってIoT戦略を加速させようとしている。同社の取締役(兼)専務執行役員でICTソリューション本部長を務める黒本和憲氏に話を聞いた。
国内製造業によるIoT(モノのインターネット)活用サービスの成功事例として真っ先に上げられるのが、建設機械大手・小松製作所(コマツ)の機械稼働管理システム「KOMTRAX(コムトラックス)」だろう。建機の位置情報や車両情報を通信で取得することによって、保守管理から省エネ運転に至るまで顧客にさまざまなサービスを提供している。
コムトラックスが開発されたのは、IoTという言葉が広く知られるようになるよりはるか前の1999年。その後、2000年代に入ってからのコマツ躍進の原動力となったコムトラックスが、IoT活用サービスの成功事例として取り上げられるのは当然のことだ。
製造業IoTの勝ち組と言っていいコマツだが、「スマートコンストラクション」や「KomConnect」などによって、さらにIoT戦略を加速させようとしている。そこで、同社の取締役(兼)専務執行役員でICTソリューション本部長を務める黒本和憲氏に、コムトラックスの成功要因や、現在推し進めているIoT戦略について聞いた。
ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」のメイン企画として本連載「製造業×IoT キーマンインタビュー」を実施しています。キーマンたちがどのようにIoTを捉え、どのような取り組みを進めているかを示すことで、共通項や違いを示し、製造業への指針をあぶり出します。
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MONOist ICTソリューション本部長に就任される以前に、研究開発職を長く務めていたと聞いています。
黒本氏 1990年に発足した建機研究所でエレクトロニクス関連の技術開発に傾注していた。自動制御が可能な油圧ショベル「HYPER GX」や鉱山向けの無人ダンプトラックなどの開発を手掛けた。コムトラックスも建機研究所で開発した技術が基礎になっている。
無人ダンプトラックについては、2008年に発足したAHS(無人ダンプトラック運行システム)事業本部の本部長を務め、販売を含めた事業展開にも携わった。無人ダンプトラックという製品は、顧客の現場が分かっていないと売り込むことが難しい。そこで顧客の現場で作って売るという取り組みを進めた。現在、コマツ製の無人ダンプトラックは世界に100台以上が出荷されており、世界トップの実績と言っていいだろう
MONOist 製造業によるIoT活用サービスの成功事例とされるコムトラックスですが、その要因について教えてください。
黒本氏 コムトラックスは、携帯電話網などの無線通信ネットワークを使って、GPSによる位置情報や車両情報などを収集するシステムだ。これによって、建設機械がどこにあるのか、どうなっているかが分かる。
盗まれた建設機械でATMを破壊する強盗事件が話題になった1990年代半ばに、盗難対策としての研究開発を開始した。その後1998年に実機実証テストを行い、1999年から国内のレンタル建機向けから市場導入を始めた。
コムトラックスにとって大きな転換点になったのは標準装備化になるだろう。2001年に国内市場、2004年に中国市場で標準装備化し、それ以降も順次グローバルでの標準装備化を進めた。これは当時の社長である坂根(正弘氏)のトップダウンによる決定だった。「ビジネスに活用するためには標準装備化があるべき姿」という判断に基づいている。
コムトラックスと同様のシステムは競合他社も用意しているが、最近まではオプション装備にすぎなかった。標準装備化で先駆けたコマツの決断が、コムトラックスの優位性を決定付けたと言っていい。
実際に中国市場ではコムトラックスが大きな価値を生んだ。2000年ごろ、中国市場における建設機械の利用者は農家の次男や三男が多かった。しかし一括購入することはできないので、頭金だけを払って残り金額の支払いについては銀行などからの与信を得るしかない。この与信を得やすかったのが、モニタリング機能があるコムトラックスを搭載するコマツの製品だった。これによって中国市場におけるコマツの販路は一気に広がった。
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