近年、モノづくりの在り方はだいぶ変化しました。特にCADを取り巻く環境は大きく進歩しました。今から10年ほど前(2006年くらいまで)では、JW-CAD以外に無料で使える2D CADが増えてきたところで、3D CADに至っては「Alibre Design Xpress(アリブレデザイン・エクスプレス)」が、無料3D CADとして一部のCADユーザーに認知されていた程度でした。
ちょっと懐かしい話になりますが、2005年7月に「配布希望者が10万人に達することを条件に無料で配布される3D CADがあるらしい。しかも機能制限ナシだって!」という情報が2ちゃんねるの機械・工学板を駆けめぐり、スレ住人をざわつかせました。当時、謎に包まれた無料3D CADということで「X(エックス)CAD」などと呼ばれていたそれがAlibre Design Xpressでした。機能制限ナシの本格的な3D CADがタダで手に入る……。「据え膳食わぬはなんとやら」ってことで、たちまち希望者が集まり、2005年8月に、10万人のAlibre Design Xpressユーザーが誕生したのでした。筆者はそのユーザーの一人でした。
ほどなくしてそれに続くように、「CoCreate」(当時)からも3D CAD「OneSpace Modeling Personal Edition」が無料で提供されるなど、徐々に一般のモノヅクリストさんにも3D CADが普及するかに見えましたが、その後しばらくこれらに続く無料3D CADはなかなか現れず、普及する様子は見受けられませんでした。
そもそも2D CADは図面を描くツールなので、機械部品だけでなく、趣味の日曜大工で家具を作りたい時の部品図を描き起こすとか裁縫の型紙を描くなど、要は「とにかく図面を描きたい人」に重宝されるからユーザーが広がったものと思われ、言い換えると、かつての趣味のモノづくりは、2D図面さえあれば作れる範囲にとどまっていたとも言えます。でも、丸いものやちょっと複雑な形のものでも、イメージを思い描いたらその通りに具現化してみたいものですよね。できれば自分の手で……。
その範囲を一気に広げたのが低価格のホームユース3Dプリンタであり、併せてデスクトップCNCフライスにも注目が集まりました。「ブレイク」「革命」。本当にその言葉をかみ締めました。それに足並みを合わせるように無料で使える3D CADも続々登場し、個人が、2Dデータはもちろん3Dデータからでも思うままにモノを作れるようになり、その輪は今も拡大中です。
この「パーソナル・ファブリケーション」と称される形態は、間違いなく次世代のモノヅクリストさんを育てています。当連載でご紹介してきた加工の世界は、製造業全般の中では一部でありますが、今もこれからも、モノづくりに携わる全ての方にとって、少しでも有益な情報としてお役に立てればうれしい限りです。(終わり)
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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