今までの説明に極めて関連の深いことですが、改善によって得られる作業工数の削減目標値は、改善後の配置人員を5人から4人というように整数値とすべきであるという考え方です。
例えば、5人で行っていた作業を改善した結果、計算の上では4.4人で作業ができるようになっても、0.4人という人数の数え方はあり得ないのですから、0.4人も1人の配置となります。つまり、0.6人分改善をしても、配置人員に変更はなく、せっかくの改善努力も、これまた水の泡となってしまいます。つまり、改善の成果が利益の増大にはつながっていないということです。
計算上では、0.4人とか0.9人という言い方はありますが、現実としては0.4人分でも1人の人員配置が必要となります。従って作業改善を行った結果として0.6人分の工数を減らして0.4人分の工数を残しても原価が低減されることはないということです。
真の意味の原価低減は、整数値の人数(人員×日当たり労働時間)単位で工数を削減して初めて達成できるというわけです。従って、作業工数の低減は、整数単位での人数削減にこだわって進めていかなければなりません。
次に、このような場合の改善の方法について説明します。
〈生産内容(例)〉
以上が改善前の生産内容であるとすれば、優先的に行わなければならない改善は、所要人員の整数化(5.4人→5.0人)であることが先の説明から分かります。その改善目標値は、式(6)より、式(7)が求められ、10分(130分/台→120分/台)の工数低減が必要となります。ただし、所定時間(定時間)内で、全ての計画生産台数を造り終えるということを制約条件とした場合の例です。
多くの生産現場で見受けられることではありますが、何かの理由で計画通りの生産が達成できない時、その理由をよく調査しないまま、“能力不足”で片付けてしまい、作業人員をドンドン増やして、結果として原価高を招いてしまっている事象が多くあります。このような場合、『この仕事は何人で行うべきか?』という視点で所要人員を算出してみることが必要です。
また、改善とは、例えば5人で行っていた作業を4人でやれるようにすることですから、改善の結果として余剰となった1人に対して新しい作業価値の創造ができない限りは原価低減とはならないことは先に述べた通りです。
もう1つの重要な視点は、全行程が「タクトタイム(TT)」で造るということです。タクトタイムとは、どのくらいの時間間隔で1個を造り終えるかという時間値で、その算出式は式(5)の通りです。設備能力や現在の作業工数で決めるのではなく、日当たりの生産数量と日当たりの稼働時間によって決めるもので、その算出された時間値であるTTで生産できるように改善を実施して必要な設備能力や人員を整えていく考え方です。詳しくは、次回の【中編】で述べますが、タクトタイムで造るということは、言い換えれば、安定したリードタイムの確保と、モノが仕掛からない造り方を指しています。
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私たちは、何か困ったことが発生すると、そのことによる損害を何とか最少に収めてしまおうとする考え方と行動がとっさに働いてしまいます。例えば購入部品の納品が遅れて何かの製品が組み立てられないとすると、代わりに組み立てられる製品を探そうとします。また、機械故障が発生すると間に合わせの修理でごまかそうとしてしまいます。
このような無意識な行動が慢性化してしまうと、部品納期の遅延に対して、部品集約率の向上を目的に部品の早期発注が計画されたり、それを保管するための自動倉庫の設置が議論されることになります。また、機械故障に対しては、生産保全計画はそっちのけで設備の更新が検討されることになります。こうした行動は、現状レベルで何とかしようとする行動であって、あまり誉められたことではありません。
いつも、「あるべき姿」を考えて理想達成のための行動方針を決め、それに合致していないことが“困る”対象になり、それを求めていく行動力こそ必要ではないでしょうか。このような考え方や行動も、“モノづくりの神髄”といえるのではないでしょうか。トヨタ自動車の元副社長で、「トヨタ生産方式(Toyota Production System:TPS)」を中心的に体系化された大野耐一氏(1912年2月〜1990年5月)の「人間困らんとチエがでん」という言葉を思い出します。
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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