ある企業を訪問したとき、「自社内の時間当たりの単価は6600円で、外部の協力会社へ発注したときの時間単価は4000円なので、自社内で加工するよりも外部の協力会社(外注先企業)へ依頼した方が安上がりなので、外作比率を徐々に増やしていっている」と真顔で説明してくれた調達部の部長さんと会ったことがあります。
このような話を聞く度に、「チョット待ってよ!」と言いたくなってしまいます。原価計算もしないで、時間単価の単純比較で外注化の意思決定をしてしまうのは、極めて危険であることが、この調達部の部長さんは理解できていないのです。
もしも、自社内の生産能力よりも、投入される作業量が小さいとき(操業度が100%未満)における生産性(能率)の良しあしと原価は、あまり関係が無くなってしまいます。改善の結果、人や設備にできた余力を新製品の製造に当てるとか、外作作業の内作取り込みなど、新しい価値の生産に振り向けることができない限り、固定費として扱われる人件費や設備の減価償却費などの経費が変わることはありません。
例えば、従業員が10人の会社を例にとって見ていきましょう。ただし、1カ月当たりの稼働時間は〔8時間/日・人×20日/月×10人=1600時間/月〕、直接人件費は〔40万円/月・人×10人=400万円/月〕、その他の経費は〔450万円/月〕、総費用〔850万円/月〕とします。
操業度が100%もしくは、それ以下の場合は、せっかく作業改善を行って加工時間を削減しても、利益が全く増えないという結果になってしまいます。このような(工数低減により、ますます余力が増していく)場合は、今までよりも出来高(作業高)を10%増加させるとか、作業時間が削減された相当分だけ固定費も削減するなどの追加施策が必要になってきます。あるいは、材料費やエネルギー費などの変動費削減に原価低減活動の方針変更を行わなければなりません。このことをシッカリ区別して理解し、原価低減活動を行わなければ、頑張った改善の苦労が泡と消える結果となってしまいます。
製造原価の内訳を分類する方法の1つに、材料費、直接労務費、経費の3つに分類する方法があります。この中で、生産量の変動によって増減する変動費には、材料費と直接労務費(直接作業者の賃金・賞与、退職金積立、社会保険料や福利厚生費など)、経費の一部です。このうち、現場の操業度や能率の高低によって製造原価に影響を及ぼす原価要素のほとんどは直接労務費であるといえます。
つまり、この直接労務費は、製品を生産する場合の加工や組立の作業費となります。原価計算を行う際の作業費の算出は、単位時間当たりの単価となる“賃率またはレート(直接労務費割)”に、標準時間(ST:Standard Time)を乗じて計算されます。賃率は、以下のように求めます。
例えば、直接作業者100人の工場を例に試算してみましょう。この工場の1人当たりの平均直接労務費が月額40万円であったと仮定し、作業者の1カ月当たりの労働時間を175時間(平均残業時間15時間)で計画しているとすれば、この工場の1時間当たりの賃率(または、レート)は2286円となります。
つまり、作業者が1時間働くごとに、1人当たり2286円ずつ直接労務費が支出されることになり、この工場は、この支出に見合う分の作業量を消化(回収)していかなければ労働賃金を支払うための原資が生み出せないということになります。改善によって標準時間(ST)を削減した分だけ、その工数に見合う作業者の人数も減らすか、その余剰人員を他の新しい生産に振り向けることができれば、直接労務費の支出額と回収額が原価計算上で一致し、削減した標準時間の相当額(直接労務費=ΣST×賃率)の原価が下がったことになります。
この道理からすれば、直接作業時間の削減のみならず、出勤率の向上や、朝礼・清掃などの効率向上などにより、直接作業比率を高めることも重要な原価低減であることが理解できます。このような視点で原価低減をとらえていくことが大切で、どのような状況においても、原価低減といえば作業時間の削減一辺倒に取り組むことは間違いであることが分かります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.