睡眠不足でも脳への刺激で記憶力を維持・向上できることを発見医療技術ニュース

理化学研究所は、睡眠不足でも、大脳新皮質を再活性化することで記憶力が向上することを発見した。学習直後のノンレム睡眠時におけるトップダウン入力が、記憶の定着に必要であることが分かった。

» 2016年06月16日 08時00分 公開
[MONOist]

 理化学研究所は2016年5月27日、睡眠不足でも、大脳新皮質を再活性化することで記憶力が向上することを発見したと発表した。同研究所脳科学総合研究センターの村山正宜チームリーダーらの共同研究グループによるもので、成果は同月26日に米科学誌「Science」のオンライン速報版に掲載された。

 睡眠には、起きている間の知覚体験を記憶として定着させる機能がある。こうした知覚記憶の定着には、脳のより高次な領域から低次な領域へと情報が伝わる「トップダウン回路」を介した内因的な情報処理が重要だと考えられている。

 理研では、2015年に大脳新皮質内の第二運動野(M2)から第一体性感覚野(S1)への「トップダウン入力」が、マウスの皮膚感覚の正常な知覚に関わることを明らかにしている。今回、同研究グループは、マウスに知覚学習をさせ、トップダウン回路が知覚記憶の定着にどのような影響を与えるかを調査した。

 実験では、左右に物体を置いた床を探索させたマウスを、翌日、片面をでこぼこにした床で探索させたところ、でこぼこの床を長く探索した。その学習直後の睡眠中に、ケージを揺らして睡眠を阻害すると、2日目における新しい床への選好性は低下した。また、特定の脳状態の間だけ、M2からS1への投射を光遺伝学的手法によって抑制すると、学習直後(0〜1時間)の深い眠り(ノンレム睡眠)の時だけ知覚記憶の定着が阻害された。このことから、学習直後のノンレム睡眠時におけるトップダウン入力が、記憶の定着に必要であることが分かった。

 さらに、学習直後のノンレム睡眠時に、大脳新皮質のM2とS1を光で刺激した。その結果、光刺激をしない通常のマウスよりも学習した知覚記憶を長く保持していた。学習後のマウスを断眠させながら刺激した場合でも、通常の睡眠をとったマウスに比べて、より長い間知覚記憶を保持していた。これらの結果から、学習直後の断眠時に大脳新皮質を再活性化させることで、睡眠不足でも知覚記憶を維持・向上できることが証明された。

 今後、マウスにおける大脳新皮質の刺激パターンをさらに臨床に適用できるよう改良することで、睡眠障害による記憶障害の治療方法の開発や、健常者の知覚記憶の向上や高齢者における知覚記憶の維持などに応用できるとしている。

photo 床面認識課題
photo 学習後の睡眠時における光抑制
photo 光遺伝学を用いたトップダウン回路抑制による神経活動への影響
photo 光刺激による知覚記憶の定着への影響

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