理化学研究所は、雄マウスの子育て(養育行動)意欲が、「cMPOA」と「BSTrh」という2つの脳部位の活性化状態から推定できることを発見した。
理化学研究所(理研)は2015年9月30日、同研究所脳科学総合センターの黒田公美チームリーダーらの研究チームが、雄マウスの「父性の目覚め」に関わる特定の脳部位を発見したと発表した。雄マウスの子育て(養育行動)意欲は、「cMPOA」と「BSTrh」という2つの脳部位の活性化状態から推定できることが分かったという。
交尾未経験の雄マウスは子に対して攻撃的だが、雌との交尾・同居を経て父親になると、養育をするようになる。今回同研究チームでは、子を攻撃する雄マウスと養育する雄マウスをそれぞれ2時間子と同居させ、脳のどの部位が活性化するかを調べた。
その結果、攻撃する際には、雄マウスの前脳の分界条床核BSTの一部であるBSTrhという部位が、養育する際には内側視索前野中央部cMPOAという部位が活性化することが分かった。さらに、雄マウスが子を攻撃・養育するかは、cMPOAとBSTrhの2つの脳部位の活性化状態を調べるだけで、95%以上の確率で推定できるという。
また、養育行動に関わるcMPOAが活性化すると、攻撃行動に関わるBSTrhの働きが抑制されるという神経回路を形成していることが判明。他に、cMPOAを光遺伝学的手法で活性化すると、交尾未経験の雄マウスの子への攻撃が減ること、雌との交尾経験後はcMPOAが活性化したことから、父親になる時には、BSTrhに対してcMPOAの活動が優位になることで、子への攻撃をやめ、養育する「父性の目覚め」が起こる可能性が示唆された。
同研では、子に対する攻撃と養育という正反対の行動に必要な中枢の脳部位を同定し、その活性化状態からマウスの行動意欲が読み取れることを示したものとなる。cMPOAやBSTrhなどの脳領域は哺乳類にもあるため、こうした脳部位の働きを霊長類で調べることで、人間の父子関係の理解とその問題解決につながる可能性があるとしている。
なお、同成果は、2015年9月30日付けの国際科学誌「The EMBO Journal」に掲載された。
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