理化学研究所は、うつ様行動を示すマウスの海馬の神経細胞の活動を操作し、過去の楽しい記憶を活性化することで、うつ様行動を改善させることに成功したと発表した。
理化学研究所(以下、理研)は2015年6月18日、うつ様行動を示すマウスの海馬の神経細胞の活動を操作し、過去の楽しい記憶を活性化することで、うつ状態を改善させることに成功したと発表した。理研脳科学総合研究センター・理研MIT神経回路遺伝学研究センターの利根川進センター長らの研究チームによるもので、同月17日に英科学雑誌「Nature」に掲載された。
日本では現在、約96万人ものうつ病患者がいるといわれている。しかし、一般的に使われている治療薬の効果は個人差が大きく、精神療法などの薬以外の治療法もいまだ確立されていないという。
同研究チームでは、2014年に最新の光遺伝学を用いて、マウスの嫌な体験の記憶を楽しい体験の記憶に書き換えることに成功。うつ病には、過去の楽しい体験を正しく思い出せなくなるという特徴があることから、楽しい体験の記憶に関わる海馬の神経細胞を直接活性化することに着目した。
今回の研究では、まず、オスのマウスにメスのマウスと一緒に過ごすという楽しい体験をさせ、その時に活動した海馬の歯状回の神経細胞群を遺伝学的手法で標識した。同技術では、楽しい体験で活性化された神経細胞でのみ、光を当てると神経活動を活性化できる特殊なタンパク質(ChR2)が作製できるという。
次に、そのオスのマウスに体を固定する慢性ストレスを与えることで、「嫌な刺激を回避する行動が減る」といったうつ様行動を示すことを確認。このうつ状態のマウスの海馬歯状回で、楽しい体験の記憶として標識された神経細胞群を光遺伝学の手法で人工的に活性化したところ、「嫌な刺激を回避する行動が再び見られる」といったうつ状態の改善が見られた。
さらに、このうつ状態の改善は、海馬歯状回から扁桃体基底外側部を通り、側坐核の外側の殻であるシェルと呼ばれる領域へとつながる回路の活動によるものであることが分かった。扁桃体は恐怖・喜びといった情動の記憶に関わる領域で、側坐核はやる気・意欲などと関連する領域だと考えられている。そのため同成果は、メスのマウスと一緒にいるという、楽しい体験で感じた喜びの記憶や感覚などが細部まで呼び覚まされて、症状の改善につながっていることを示唆するとしている。
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