蛍光寿命の変化を利用したバイオセンサーの開発プラットフォームを確立医療技術ニュース

理化学研究所は、さまざまな蛍光寿命バイオセンサーを生み出すためのプラットフォームを開発した。また、作製したバイオセンサーで、蛍光寿命の変化をもとに細胞内の濃度変化を観察することに成功した。

» 2024年12月04日 15時00分 公開
[MONOist]

 理化学研究所は2024年11月19日、さまざまな蛍光寿命バイオセンサーを生み出すためのプラットフォームを開発したと発表した。ATP(アデノシン三リン酸)などに対する蛍光寿命バイオセンサーを作製し、蛍光寿命の変化を利用して細胞内の濃度変化を観察することに成功している。金沢大学らとの共同研究による成果だ。

キャプション さまざまな蛍光寿命バイオセンサーを簡便に作製するプラットフォーム[クリックで拡大] 出所:理化学研究所

 蛍光寿命バイオセンサーは、化学物質の濃度変化を蛍光寿命の変化で捉えるセンサーだ。今回開発したセンサーは、量子収率(蛍光強度)が93%と明るく、4.0ナノ秒と寿命が長い青緑色蛍光タンパク質「mTurquoise2」を利用している。

 mTurquoise2において、励起エネルギーの漏れを防ぎ、蛍光寿命を長く、蛍光強度を高くすることに寄与しているのは、蛍光発光部位の近くにある146番目のアミノ酸フェニルアラニンと考えられている。

 そこで、センサーとして機能させるために、mTurquoise2の145番目のチロシンと146番目のフェニルアラニンの間に生体分子と結合して構造変化するセンサータンパク質を挿入する技術を開発した。センサータンパク質は標的化学物質と結合すると構造が変化し、mTurquoise2の蛍光発光部位に影響を及ぼすため、蛍光寿命と蛍光強度が変化する。

 センサータンパク質としてATP結合タンパク質をmTurquoise2に挿入したところ、ATPの結合に応じて蛍光寿命と量子収率の変化が見られた。また、挿入部分の前後のアミノ酸配列を変化させて改良し、ATPの結合で蛍光寿命が1.0ナノ秒短くなる蛍光寿命ATPバイオセンサー「qmTQ2-ATP」を開発した。qmTQ2-ATPを用いて、解糖系阻害剤の添加による細胞内ATPレベルの変動を検出できたことから、細胞内でのATP濃度変化の計測が可能であることを実証した。

キャプション 細胞内エネルギー代謝評価のためのATP蛍光寿命センサーの開発[クリックで拡大] 出所:理化学研究所

 同様に、蛍光寿命が0.6ナノ秒長く変化する蛍光寿命cAMPセンサー「qmTQ2-cAMP」を開発し、qmTQ2-cAMPを発現させた培養細胞を薬剤刺激することでcAMP応答を可視化した。また、qmTQ2-cAMPと既存の赤色カルシウムイオン蛍光寿命センサーを組み合わせた、カルシウムイオンとcAMPの2色蛍光寿命イメージングにも成功している。

 今回開発した設計手法を検証した結果、さまざまな蛍光寿命バイオセンサーヘの拡張が可能であり、クエン酸やグルコースに対する蛍光寿命バイオセンサーも同一の手法で作製できることが示された。

キャプション クエン酸とグルコースに対する蛍光寿命センサーの開発 出所:理化学研究所

 今回開発したプラットフォームにより、蛍光寿命が変化する新しいタイプの蛍光バイオセンサーを簡便に作製できるようになる。さまざまなバイオセンサー開発の進展に貢献することが期待される。

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