『ものつくり敗戦』の木村氏の辛口講演で幕を開けた「SolidWorks World Japan」の内容を交え、日本の技術者の未来について考えてみる
日本の技術者たちは「システム思考」を軽視し、匠の技術にとらわれ過ぎではないだろうか。日本のモノづくりや技術力の現状について、厳しい見解をまとめた『ものつくり敗戦』で、独立行政法人理化学研究所 理研BSI-トヨタ連携センター センター長 木村 英紀氏はこのようなことを述べている。
自動車や家電など、世の中の製品はシステム化した。ガワ(筐体)や機構を作るだけではなくて、電気回路やソフトウェアがなければ成り立たない。もはや製品の付加価値は、ハードウェア(もの)ではなく、ソフトウェア(こと)にある。それにもかかわらず、日本の技術者たちはそのトレンドに追いつけない。あいかわらず、いい“もの”を作っていれば売れるのだと、いまだに信じている――そして日本のモノづくりは、“敗戦”した。
著書と同様、本講演もまた日本の技術者に対する厳しい戒めでもって締められた。
日本の技術の3大弱点は、「理論」「システム」「ソフトウェア」。高等教育や大学受験で数学を必修にしないから、日本人の論理力はどんどん衰えていく一方。そんなことだから、日本国内のソフトウェア輸入も超過してしまうのだ――たとえ米国のソフトウェアベンダのイベント内であっても歯に衣を着せぬ、木村氏。確かに、それは紛れもない事実だ。
その一方、DSソリッドワークスが、日本人ユーザーを大切にしていることもまた事実。同製品のβ版評価で、特に熱心にフィードバックするのが、日本人ユーザーでもある。日本の匠精神の一部である細やかさ、熱心さ、生真面目さの表れだ。このイベントで発表した3次元CADの新製品「SolidWorks 2011」にも、もちろんそれが生きている。
同イベント内でSolidWorks 2011 β版の貢献者ナンバー1として表彰されたのは、部品メーカー NOKの東野 正信氏。同氏は実際の業務中にβ版を使いながら、200件以上の不具合をソリッドワークスに報告。今回は、その功績がたたえられた。報告された不具合の多くは無事解消されたとのことだ。
短所を徹底的につぶすのがいいのか、長所を前向きに伸ばすのがいいのか。短所の真裏には長所がある、と人の性格でもよくいわれること。日本人の能力や性質――短所も長所も――冷静に見つめ、それをうまく活用して効果を出す術について、「具体的にどうするのか」は、モノづくりの当事者たちが考え抜くしかない。
同イベントでも講演した米DSソリッドワークス ワールドワイド営業統括副社長 ベルトラン・シコット(Bertrand Sicot)氏に、同社製品についての話と合わせ、同氏が日本をいったいどう見ているのかも少しだけだが尋ねた。
――シコットさんから見た日本人ユーザーの印象は?
シコット氏:日本人はものごとを詳細に見ています。メンタリティも緻(ち)密です。ポジティブな意味での特殊性を持っています。わたしは、それが製品の素晴らしい品質につながっていると思っています。また日本のユーザーは、ソリッドワークスにとっても、非常に大きな影響力を持っています。
――CAE(解析、シミュレーション)機能について、日本でもニーズが高まってきていますが、CAEの市場動向についてはどう見ていますか。
シコット氏:CAEの市場は成長し続けていますし、SolidWorks Simulationのユーザーも増加しています。FEAはかつて高度な専門教育を受けた人が使えないものでしたが、いまはCADに組み込んであるCAEもあり、操作が簡単になりました。一昔前はCADが設計において主流のツールでしたが、いまはCAEもその一部になりつつあるのではないでしょうか。CAEは、システム製品の開発でも欠かせません。
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