車載システムの制御アルゴリズム開発に広く利用されている「MATLAB/Simulink」。車両搭載が広がっているADAS(先進運転支援システム)や、その延長線上にある自動運転技術の開発でも活用されている。そこで重視されているのが、MATLAB/Simulinkの“分析”の機能だ。
The MathWorks(マスワークス)が提供するモデルベース開発環境「MATLAB/Simulink」は、自動車メーカーやティア1サプライヤの制御系車載システムの開発で広く利用されている。MATLABでプログラムした制御アルゴリズムと、制御対象となるプラントモデルなどをSimulinkで連携してのシミュレーションによって得られるメリットは極めて大きいからだ。
車両搭載が広がっているADAS(先進運転支援システム)と、その延長線上にある自動運転技術の開発にもMATLAB/Simulinkは活用されている。マスワークスでManager Industry Marketing EMEAを務めるGuido Sandmann氏は「ADASでは、ミリ波レーダー、ライダー、車載カメラといった各種センサーから取得した情報を処理して、制御システムが自動ブレーキを掛けるなどの判断ができるようにしなければならない。MATLAB/Simulinkは、これらセンサー情報を最適に処理するアルゴリズムの開発に用いられる事例も増えてきている」と語る。
Continental(コンチネンタル)の事例では、車載カメラによる標識の自動認識にMATLAB/Simulinkを利用している。例えば、速度標識であれば、車線ごとに異なる速度を指定している場合がある。この状況を車載カメラで速度標識を形状認識しようとすると、異なる速度の情報が得られるため、制御システムは正しい判断を行えなくなってしまう。そこで、機械学習が可能なオプションツールの「Statistics&Machine Learning Toolbox」を使うなどして最適な標識認識のアルゴリズムを開発したという。
さまざまなセンサーを用いるとともに、それらセンサーの情報を融合するセンサーフュージョンも行うADASで得られるセンサーデータの量は膨大だ。「ADASの開発で得られるセンサーデータはペタバイトレベルに及ぶこともある。まさに“ビッグデータ”だ。ビッグデータ分析というとITベンダーの領分のように思えるかもしれないが、ADASのような制御システムと連携する場合、MATLABと各種オプションツールの組み合わせによる分析が最適だ」(Sandmann氏)という。
実際に商用車メーカーのScania(スカニア)は、トラックの自動ブレーキシステムを開発する上で、収集したセンサーデータの分析をMATLAB/Simulinkで行っている。
そしてSandmann氏は「IoT活用サービスの一例である自動運転技術は、エッジである自動車におけるリアルタイム性を求められる機能と、通信機能によって連携するクラウドなどのインフラ側で行う機能の最適な分担が課題になっている。ADASの開発で活用されているMATLAB/Simulinkによるビッグデータ分析は、自動運転技術のエッジとクラウドの機能分担の最適化にも役立てられる」と強調する。
自動車業界では車載システムの制御アルゴリズム開発で知られるMATLAB/Simulinkだが、数値解析ソフトであるMATLABは統計解析などにも利用されていることから分析ツールでもあるのだ。「ビッグデータ分析というと、ITベンダーの高価なツールを使ってデータサイエンティストが行うイメージがあるかもしれない。しかし、MATLABと適切なオプションツールを活用すれば、ADASのような自動運転技術に関わるシステムの開発に携わる技術者でも、データサイエンティストのようにビッグデータ分析ができる。自動運転技術を開発する上で極めて効率的だ」(同氏)。
MATLAB/Simulinkで構築したアルゴリズムを、Amazon Web Services(AWS)などのクラウド側で動作させる環境も用意されている。
他分野ではあるが、MATLAB/Simulinkで構築したIoT活用サービスの事例は既にある。Safran(サフラン)の航空機エンジンの予防保全を行うモニタリングシステムだ。「こういった事例は今後も増えていくだろう。もちろん自動運転技術の開発にも展開できるはずだ」(Sandmann氏)としている。
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