東京大学は、脳の神経細胞の活動を抑えるGABA受容体の運搬に関わるタンパク質「PX-RICS」が、ヤコブセン症候群患者に発症する自閉症の原因であることを特定した。
東京大学は2016年3月16日、脳の神経細胞(ニューロン)の活動を抑えるGABA受容体の運搬に関わるタンパク質「PX-RICS」が、ヤコブセン症候群患者に発症する自閉症の原因であることを特定したと発表した。同大学分子細胞生物学研究所の中村勉講師と秋山徹教授らの研究グループによるもので、成果は同日、英科学誌「Nature Communications」に掲載された。
ヒトの脳にあるニューロンの連結部(シナプス)では、グルタミン酸(興奮性)とGABA(抑制性)を伝達物質とする信号伝達が行われている。しかし、両者のバランスを調節する機構に異常が発生し、神経回路の興奮/抑制バランスが乱れると、自閉症を発症すると考えられている。
同研究グループは、大脳皮質/海馬/扁桃体など、脳の認知機能に関連する領域のニューロンに豊富に発現するタンパク質PX-RICSを同定し、その遺伝子を欠損するマウスを作製。同マウスは外見的には正常だが、他のマウスに対する興味や超音波域の鳴き声を使った母子コミュニケーションが少なかった。一方で、正常なマウスよりも反復行動が多く、習慣への強いこだわりがあるなど、自閉症の症状に類似した行動異常を示すことが分かった。
また、こうした自閉症様行動の発生メカニズムを解析したところ、PX-RICSがGABAA受容体をニューロン表面へ運搬する役割を担っていること、PX-RICS遺伝子の欠損でGABAA受容体をニューロン表面に発現できなくなると、自閉症の発症に直接結び付くことが示された。
さらに、PX-RICS遺伝子が、ヤコブセン症候群(11番染色体長腕末端部の欠失に起因する先天異常疾患)患者の半数以上に発症する自閉症の原因となる遺伝子であることを特定した。
同成果は、GABA受容体の輸送を改善する薬剤の開発など、自閉症の新しい治療戦略への貢献が期待されるという。
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