国立がん研究センターは、米国立がん研究所との共同研究で、血液中のアポリポプロテインA2(apoA2)アイソフォームを測定することで、既存のバイオマーカーに比べて高い精度で早期膵がんを検出できることを確認した。
国立がん研究センターは2015年11月9日、血液中のアポリポプロテインA2(apoA2)というタンパク質のアイソフォーム(タンパク質の構造や機能が似通った分子の総称)が早期膵がんや膵がんリスク疾患で低下することを発見した。また、アメリカの国立がん研究所(NCI)との共同研究においても、既存のバイオマーカーに比べて高い精度で早期膵がんを検出できることを確認したと発表した。この研究は、同研究所創薬臨床研究分野の本田一文ユニット長の研究グループによるもので、成果は英オンライン科学誌「Scientific Reports」に同日付けで掲載された。
膵がんは早期発見が困難であり、他のがん種と比べ、非常に予後不良な疾患だ。膵がんの治療成績の向上には、血液検査などによって早期膵がんや膵がんのリスクが高い疾患(膵管内乳頭粘液性腫瘍、慢性膵炎など)をスクリーニングし、画像検査などによる精密検査で病変を捉える早期診断法の開発が必要とされている。
apoA2アイソフォームは、健常人には血液中に一定量存在し、善玉コレステロール(HDL)を形成するタンパク質だ。同研究グループはこれまで、質量分析の結果から、apoA2アイソフォームが膵がんや膵がんリスク疾患の患者で低下することを見いだし、報告していた。
今回、NCIとの共同研究で、米国の早期膵がん患者(I期、II期膵がん98例)を含む252例の血液を用いてapoA2アイソフォームを測定し、盲検下で確認試験をしたところ、健常者に比べ早期膵がん患者でapoA2アイソフォームが低下していることが確認された。また、既存の膵がんバイオマーカーであるCA19-9と比べて高い精度でI期、II期膵がんを検出できることも確認された。この結果からNCIは、apoA2アイソフォームが膵がんにおける信頼性の高い血液バイオマーカーになりうると評価しているという。
さらに同研究グループは、apoA2アイソフォーム検査を実用化するために簡便な検査法の開発に取り組み、検査キットの作製(Human apoA2 C-terminal ELISA kit、研究用試薬)に成功した。国内多施設で集められた、膵がん286例を含む消化器疾患患者と健常者の血液検体の合計904例分をこの検査キットで測定し、その判別性能を検討。その結果、既存の膵がんバイオマーカーであるCA19-9と比べ、より高精度に早期膵がんを検出できた。また、CA19-9が反応しない膵管内乳頭粘液性腫瘍や慢性膵炎などの膵がんリスク疾患も高い精度で検出可能だった。さらにapoA2アイソフォームとCA19-9を組み合わせることで、早期膵がんの検出率はさらに向上した。
今後、国立がん研究センター研究所は神戸大学などと協力し「apoA2アイソフォームを用いた膵がん模擬検診」を開始する予定だ。この模擬検診を含むさらなる研究によって臨床での有用性を検討し、膵がん検診における血液バイオマーカーの実用化を目指す。
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