CICSは、「イノベーション・ジャパン2015」において、ホウ素捕捉中性子療法(BNCT)を用いたがん治療装置を紹介した。独自に開発したリチウムターゲットと加速器の組み合わせによる小型化を特徴としている。
CICSは、科学技術振興機構(JST)と新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)が主催する「イノベーション・ジャパン2015」(2015年8月27〜28日、東京ビッグサイト)において、ホウ素捕捉中性子療法(BNCT)を用いたがん治療装置を紹介した。
BNCTは、中性子線を用いたがん治療法である。がん細胞に特異的に取り込まれやすい特定のホウ素化合物を患者に投与した上で、がん細胞に蓄積されたホウ素化合物に中性子線を照射すると、ホウ素化合物に衝突した中性子によって核分裂が起こる。この核分裂によって、粒子線の1種であるα線が生じ、がん細胞を内部から死滅させることができる。
なお、ここで言う核分裂は、がん細胞が取り込んだホウ素化合物でしか起こらず、α線の照射範囲もホウ素化合物の周囲10μ〜20μmと極めて狭い。使用する中性子線は人体に無害なので、ホウ素化合物を取り込んだがん細胞だけを選択的に死滅させられるという仕組みだ。
従来、BNCTに使う中性子線源は原子炉を用いていた。日本では京都大学原子炉実験所の研究用原子炉(KUR)を用いたBNCTなどが知られている。ただし、医療機器としての普及を目指すのあれば、中性子線源に原子炉は選択できない。
もう1つのBNCTの中性子線源が加速器である。CICSは、陽子線加速器と独自に開発したリチウムターゲットを組み合わせることで、発生する中性子線のエネルギー値を大幅に低減。高エネルギーの中性子線を減速するシステムや遮蔽(しゃへい)などが不要になるため、従来よりもBNCTのがん治療装置を小型化することができた。現在、国立がん研究センターに設置されており、治験も始まっている。
加速器などを使ったがん治療装置には、陽子線や重粒子線を患部に照射するものが知られている。これらの治療装置は、がん患部にピンポイントで陽子線や重粒子線を照射し、がん細胞を死滅させられるという特徴がある。ただし、照射治療を複数回受けなければならず、照射の状況によっては正常細胞に損傷を与える可能性もある。
BNCTは、照射回数は1回でも十分な効果があり、ホウ素化合物を取り込んだがん細胞だけを選択的に死滅させる効果があるなど、陽子線や重粒子線のがん治療装置にない特徴がある。また、CICSのBNCTのがん治療装置のコストは、陽子線や重粒子線のがん治療装置の3分の2で済むというメリットもある。「ただし、陽子線や重粒子線のがん治療装置を置き換えるものではなく、互いに補完し合うことになる。治験を進めながら、2018年をめどに販売できるようにしたい」(CICS)という。
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