三菱電機は、がん治療に用いられる粒子線治療装置向けの「多機能照射ノズル」を開発した。2015年度内に薬事承認を得て、2016年度から運用を開始する陽子タイプの施設に適用する。
三菱電機は2015年2月17日、東京都内で開催した研究開発成果披露会において、がん治療に用いられる粒子線治療装置向けの「多機能照射ノズル」を展示した。2015年度内に薬事認証を得て、2016年度から運用を開始する陽子タイプの施設に適用する。
粒子線治療装置とは、加速器を使って生成した粒子線(高エネルギーのイオンビーム)をがん病巣に照射し、がん細胞のDNAを切断して治療する放射線治療装置の1種だ。放射線治療装置としてより一般的なX線治療装置と比べて、病巣に集中的に照射できるという特徴がある。
今回開発した多機能照射ノズルは、粒子線治療装置で用いる、ブロードビーム、積層原体、スキャニングという3種類の粒子線ビームを1つのノズルで照射できることを特徴としている。
従来、ブロードビームと積層原体は1つのノズルで照射できたが、スポットを小さく絞り込んでがん病巣を走査して照射を行うスキャニングでは、ビームをより高速で走査できる高性能の電磁石が必要なため別の照射ノズルを使う必要があった。三菱電機は、粒子線治療装置の製造を担当している同社の神戸製作所が持つ発電機の技術を活用して高性能の電磁石を開発。ブロードビームと積層原体に加えて、スキャニングも行える多機能照射ノズルの実現につなげた。
多機能照射ノズルの実現によって、ブロードビームと積層原体、スキャニングのそれぞれで性能を向上することもできた。ブロードビームと積層原体については、高性能の電磁石によって走査速度が従来比5倍の100mm/msになり、照射時間を最大で約3分の1に短縮できるようになった。
スキャニングでは、ブロードビームと積層原体に使う、照射が不要な部位にビームが当たらないようにするマルチリーフコリメータを使うことで、照射領域の輪郭をさらに明確にできるようになった。これにより、近傍に重要臓器がある複雑な標的にも的確にビームを照射できるようになるという。
現在日本国内には、粒子線治療装置が19カ所に設置済みもしくは設置される予定で、これらのうち10カ所が三菱電機製となっている。ただし、海外市場での採用事例はまだない。今回の多機能照射ノズルをてこに、まずは北米市場における提案活動を強化する方針だ。
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