岡山大学は、抗がん抗原抗体を高感度に検出する新技術を開発した。大量調製を困難にしていた課題を解決して開発された試薬と調製技術は、がん免疫治療や関連医薬品開発における重要なツールとして期待される。
岡山大学は2015年10月23日、がん患者の体内で誘導されるがん細胞に対する免疫応答のレベルを、ごく微量の血液から定量評価する新技術を開発したと発表した。この研究は、同大大学院自然科学研究科の二見淳一郎准教授らの共同研究グループによるもので、成果は9月10日、「Bioconjugate Chemistry」電子版で公開された。
がん治療において「がん細胞の破壊」と「効率的な腫瘍免疫応答」が同時に誘導できればQuality of Life(QOL)の高い長期生存が達成できることが判明し、がん免疫治療に大きな期待が寄せられている。しかし、がん免疫治療は治療効果が表れるまで数カ月かかる場合もあり、腫瘍サイズだけでは治療効果の評価が困難なことがある。そのため、腫瘍免疫応答の活性化レベルを評価する診断薬が求められていた。
同研究グループは、がん免疫治療がよく効いている症例では、血液中にさまざまな抗がん抗原抗体が増加するという現象に着目。抗がん抗原抗体を定量測定する診断薬開発に取り組んできた。しかし開発には2つの課題があった。
1つ目は、がん抗原が200種類を超えるほど多種多様であり、どの抗原ががん細胞内で発現し、どの部分が抗原性を示すかには、非常に大きな個人差があるということだ。同研究グループは、この問題に対し100種超の全長のがん抗原タンパク質を組み換えタンパク質として高生産するリソース整備を進めているという。
2つ目の課題は、大半のがん抗原が不安定な物性で不溶化しやすく、通常の手法では大量調製が困難であるということだった。同研究グループは、タンパク質内部のCys残基に対する化学修飾技術を活用した、独自の可溶化技術を開発することでこれを解決した。さらに、これらの全長・水溶性がん抗原を蛍光性磁気ビーズに固定化することで、高感度な抗体検査が可能になることを確認。診断薬開発の技術基盤が整った。
なお、同手法で調製した抗体検査試薬を用いて、がん免疫治療が奏功した例では、より高い抗がん抗原抗体価の上昇が確認され、技術の有用性が確認されたという。
この技術はがん免疫治療や関連の医薬品開発における重要なツールとして、がん免疫治療の効果をリアルタイムに測定できるコンパニオン診断薬として応用が期待されるものであり、今後、完成・実用化を急ぐとしている。
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