九州大学は、進行性の神経発達障害「レット症候群」の原因遺伝子「MeCP2遺伝子」が、細胞内の遺伝子発現制御で重要な役割を持つマイクロRNA(miRNA)の生成過程を促進することを発見したと発表した。
九州大学は2015年9月4日、進行性の神経発達障害「レット症候群」の原因遺伝子「MeCP2遺伝子」が、細胞内の遺伝子発現制御で重要な役割を持つマイクロRNA(miRNA)の生成過程を促進することを発見したと発表した。同大大学院医学研究院の中島欽一教授、辻村啓太特任助教らの研究グループによるもので、9月3日に米科学誌「Cell Reports」オンライン版で公開された。
レット症候群は、自閉症スペクトラム障害の1つで、運動・言語能力の喪失、精神遅滞などによって特徴づけられる神経発達障害だ。昨今の研究で、MeCP2遺伝子の変異が原因とされるレット症候群の発症には、mTORシグナルの制御不全が関与することが示唆されている。しかし、MeCP2がどのようにmTORシグナルを制御しているかは明らかにされていなかった。
同研究グループでは、プロテオミクス技術や次世代シークエンス技術を用いた網羅的な解析により、MeCP2がmiRNAマイクロプロセッサーであるDrosha複合体と会合し、特定のmiRNAの生合成(プロセシング)を促進することを発見した。また、MeCP2の下流標的miRNAとしてmiR-199aを同定し、これがMeCP2欠損ニューロンの代表的な各種表現型を改善できること、miR-199aはmTORシグナルを負に制御する因子の発現を抑制することで、最終的にmTORシグナルの活性化を高進することを明らかにした。
さらに、miR-199aの発現を減少させたマウスでは、MeCP2欠損マウスに見られる多くの表現型を示すこと、脳においてmTORシグナルの減弱が見られたという。加えて、レット症候群患者の脳組織では、miR-199aの発現が実際に低下していることも分かった。
同成果は、正常な脳の発達と機能には、MeCP2によるmiR-199aを介したmTORシグナルの正の制御が重要であること、これらの分子メカニズムの破綻により、レット症候群が引き起こされることを示したものとなる。今後は、さまざまな精神疾患・発達障害の発症メカニズムの解明や治療薬開発につながることが期待できるとしている。
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