今回の3Dプリンティング技術に関するハイプサイクル2015年版で注目すべきは、「医療分野での利活用の動き」(三谷氏)だという。
3Dプリンティング技術に関するハイプサイクル2015年版では、「医療機器の3Dプリント(3D Printing of Medical Devices)」が「過度な期待」のピーク期を迎えている。ここでの医療機器とは、義手や義足、臓器の模型、手術用の治具やガイドなどが含まれるという。
「“医療機器の3Dプリント”とは、身体の中に埋め込むものではなく、主に身体の外側で使うようなものを指す。CTやMRIの画像を基に臓器の3Dモデルを作成し、手術前のシミュレーションや患者への説明、教育に活用するケースも出始めている。また、3Dスキャナを活用して自分の腕の形状にぴったりと合った軽量で通気性の良いギプスを3Dプリンタで製作したり、3Dプリンタ製の義手や義足を製作したりする話題もよく見聞きするようになってきた。こうした個人に最適化できるカスタマイズ性が3Dプリンタの魅力。医療分野でも製作期間の短縮やコスト削減だけでなく、患者の回復の早さや快適性などにも効果があるとされ大きな注目を集めている」(三谷氏)。
医療分野での利活用に関して、注目すべき動きが3つある。
1つ目は、生産性の安定期に入りつつある「補聴器の3Dプリント(3D Printing of Hearing Devices)」だ。既に主要な補聴器メーカーは、3Dスキャン&3Dプリント技術を活用した顧客の耳の形状に最適化された補聴器の製造を行っているという。
「従来の補聴器に比べて高価になるが、子が親にプレゼントするなど、順調に売り上げを伸ばしていると聞いている。自分の耳の形状にぴったりと合った快適性を“付加価値”として提供できる。パーソナライズされた製品が作れるのも3Dプリンタの魅力の1つではないだろうか。医療分野とは異なるが、最近ではイヤフォンなどでも同じように3Dスキャン&3Dプリントが活用されている」と三谷氏は説明する。
2つ目に注目したいのが、間もなく幻滅期を脱しようとしている「歯科機器の3Dプリント(3D Printing of Dental Devices)」だ。「歯科インプラントや歯列矯正器具のような、その人個人にパーソナライズされたものに関しては既に3Dプリンティング技術が活用されている。今後5〜10年くらいの間で、“補聴器の3Dプリント”と同じような発展を遂げるのではないだろうか」(三谷氏)。
そして、3つ目が「黎明期」の中にいながら、2〜5年後に生産性の安定期へ向かうだろうと期待されている「3Dプリントを活用した股関節/膝関節のインプラント(3DP-Aided Hip/Knee Implants)」だ。米国では、股関節/膝関節の外科手術の件数が年間100万件にも上り、150億米ドルもの市場規模になるという。そうした背景もあり、パーソナライズされた人工骨や人工関節を3Dプリンタで製作して、実際に手術に用いようという動きが進んでいるそうだ。「CTやMRIの画像から自分の身体にマッチした代替品を3Dプリンタで製造し、使用するので身体への負担も少なく、手術後の回復も早い。従来のやり方で人工骨や人工関節を作るよりも早く安価にできるのも特長だ。恐らく2016年にはピーク(=『過度な期待』のピーク期)に達し、今後2〜5年のうちに、人工骨や人工関節への適用が当たり前のようになるだろう」と三谷氏(関連記事:3Dプリンタで成形する「カスタムメイド人工骨」をEU諸国で製造・販売)。
また、これら以外の医療分野で動向が注目されるのが、「3Dバイオプリンティング」の領域だろう。3Dプリンティング技術に関するハイプサイクル2015年版の中では、臓器移植用3DバイオプリンティングシステムとライフサイエンスR&D用3Dバイオプリンティングの2つに分類されている。
臓器移植用3Dバイオプリンティングシステムとは、人体への移植を前提とした生体組織の製造を3Dプリンティング技術で行うというものだ。そして、ライフサイエンスR&D用3Dバイオプリンティングとは、細胞、たんぱく質、DNAなどの3Dプリンティングの研究開発を意味する。「これらの研究開発は順調に進められており、5〜10年で生産性の安定期に入ると予測されている。いずれ、病気になった臓器を取り出して、自分の細胞を基にバイオプリンティングされた新しい臓器を移植することも将来的には可能になるかもしれない。ただ、研究は進んでいるとしても、実用化にどれくらいかかるかはこれからの課題となる」(三谷氏)。
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