富山大学大学院医学薬学研究部(医学)の井ノ口馨教授らは、脳に蓄えられている異なる2つの記憶を持つ細胞集団を人為的に活動させ、新たな記憶を作り出すことに成功した。
富山大学は2015年4月3日、脳に蓄えられている異なる2つの記憶を持つ細胞集団を人為的に活動させ、新たな記憶を作り出すことに成功したと発表した。同大大学院医学薬学研究部(医学)の井ノ口馨教授、大川宜昭助教、東京慈恵会医科大学の加藤総夫教授らの研究グループによるもので、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業として行われた。
脳には、異なる記憶同士を関連づけて、新たな意味を持つ記憶を形成する能力がある。近年、光遺伝学の手法を用いて、特定の記憶を人為的に想起させたり、それを現在経験中の出来事に連合させて偽記憶を作り出すことが可能になっている。しかし、古い記憶同士が連合し、質的に異なる新たな記憶が形成されるメカニズムや、人為的に連合させることができるのかは明らかにされていなかった。
同研究では、まず、マウスを丸い箱に入れて場所を記憶させ、30分後に四角い箱に入れて電気ショックを与えて恐怖体験をさせた。その後、マウスを再び丸い箱に入れたところ、低い恐怖反応しか示さず、場所(丸い箱)の経験と恐怖体験(電気ショック)は独立した記憶として覚え込まれていることが分かった。
次に、2つの独立した記憶を人為的に連合できるかを調査するため、場所の経験と恐怖体験をした際に活動した特定の神経細胞集団(セルアセンブリ)にレーザー光を照射し、人為的に同期活動させた。翌日、このマウスを丸い箱に入れると強い恐怖反応を示し、体験のない三角の箱では恐怖反応を示さなかった。これらの結果から、それぞれの記憶に対応するセルアセンブリが同時に活動し、重なることが記憶の連合のメカニズムであることが明らかになった。また、異なるセルアセンブリを同期活動させることで、独立した2つの記憶を人為的に連合できることが分かった。
今回の研究成果は、ヒトの高次脳機能の解明につながる成果になるという。また、関連性の弱い記憶同士の不必要な結びつきは、さまざまな精神疾患に関わっていることから、同成果は精神疾患の治療法創出につながる可能性もあるとしている。
なお、同研究成果は、2015年4月2日(米国東部時間)に米科学誌「Cell Reports」のオンライン速報版で公開された。
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