ラップタイムに効く空力効率! PIVとCFDで開発するF1カーCAEセミナーリポート(2/2 ページ)

» 2015年04月08日 09時00分 公開
[加藤まどみMONOist]
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迅速な開発には2D2Cが有効

 風洞実験はドイツのケルンにあるTMG(Toyota Motorsports GmbH)の風洞で行った。風洞の全長は148mで、回流タイプ(ゲッチンゲン型)である。縮流比は6.7:1で、送風機の最大出力は2.3MW、主最大風速は秒速60m、測定部は幅2.4m、前後7mである。TMGには同じ諸元の風洞が2機あり、2009年にレギュレーションで風洞実験の時間に制限が設けられるまでは、2機の風洞をフル稼働していたという。

 内部にはスチール製ムービングベルトがあり、天井から車体を6分力天秤でつり下げる。実車と60%スケールモデルで実験した。流れに影響を与えることから風洞内部には物を置けないため、壁の外に装置を設置したが、支柱などの制約が多く苦労したという。実験のたびにセッティングをするのは大変なので、常に設置できるタイプを構築した。始めは3次元的に流れを把握するために、ステレオカメラの導入などの要求もあったが、制限もあり難易度が高かった。一方、同時に設置、観測を行っていた2Dカメラは、セッティングもデータの解析もステレオより簡単で、しかも場所を取らない。そのため2D2Cで行くことに決定したという。最終的にフロントホイール後流の計測用システムや、床下流れの計測用システムを構築した。

フロントホイール回りが重要

 2008年のトヨタF1の車体「TF108」では、フロントホイールの後ろ側で、下側の後流が外側に流れ、その反動で上流の流れが内側に向かうような流速分布図が得られた。実は2009年のレギュレーションは、空力性能の向上に伴って減少していたオーバーテイク(前方の車両の追い越し)シーンを増加させるため、ダウンフォースを50%低減させるように変更が行われた。その結果、2009年の車両「TF109」ははじめの頃、フロントタイヤ後流において、上部でも下部でも内側に流れ込むような形になった。その後、レースシーズン中に空力性能を上げていった結果、最後は2008年のようなひずんだ流れに戻ったという。つまり床下にフロントタイヤ後流の流れが入り込まない形だと、きれいな流れが床下に潜り込み、空力性能が良くなることが分かった。

 中川氏は、フロントホイールの周辺を、進行方向に平行な縦断面で計測した例も紹介した。タイヤの上における剥離点の位置の把握は、CFDの精度向上の目安の1つとなっているという。剥離点は大体タイヤの一番上部だが、時間によって前後に変動する。同じ状態をCFDで計算すると、始めはPIVと異なる結果になったという。なおCFDは開発期間が限られることから、RANS型の時間平均化された基礎方程式を、乱流モデルを用いて解く手法を採用している。PIVとCFDの結果を比較して乱流モデルで使う係数および、境界層分布を決定するタイヤの表面粗さの係数を合わせ込むことにより、実験と同じような流れ場を再現した。

箱車にも適用可能

 床下や車体横の計測事例についても示した。これらはいわゆる箱車のレース車両にも応用可能だという。床下は幅が狭いため、レーザーシートを広げる必要がなく、データも倍のサンプリング周波数で計測ができスピーディーに計測できるという。中川氏は床下の計測例として、前輪直後にあるターニングベインというパーツから発生した縦渦や、床前方から生じた渦が床下に流れ込み、合流する例を示した。また前方の部品を外した場合の後方の流れの変化や、床下後方のディフューザ周辺についても計測することが可能だという。

 また側面のフロントホイールからリアホイールまでの位置にわたって、主流に垂直な断面図を計測した事例を紹介した。この場合はカメラは後ろに配置して撮影する。TF108は、ボディでも多くのダウンフォースを稼いでいた。フロントウィングからの跳ね上げにより生じた大きな渦を使って、そのさらに後ろに配置されたパーツによりダウンフォースを獲得していたという。一方TF109はレギュレーション変更によりフロントウィングの幅がかなり広がった。これらの変更などにおいて流れの変化を見るためにも側面の計測は重要だったということだ。

 なおこの断面は主流方向に対して垂直なため、主流方向の影響で誤差が生じやすい断面方向だということだ。そのためCFDとの比較時は注意しなければならないという。だがF1のように横方向に大きな流れ場を持つ場合は非常に有効な観察面とのことである。

 トヨタのF1空力開発では、PIV手法を用いて2D2Cの観測手法を確立するとともに、CFDとの合わせ込みによりCFDの予測精度を向上させ、スピードと精度を両立させる開発を行った。車体下、車両側面などの計測については他のレース車両の開発にも応用できるということだ。

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