海外展開でもうかる企業は一部だけ!? 日系企業が国内生産にこだわるべき理由いまさら聞けない「工場立地」入門(4)(4/4 ページ)

» 2014年10月16日 10時00分 公開
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世界から見た場合、日本市場は“将来性のある巨大市場”

 そもそも「日本市場に将来性がない」というのも、世界的視点から見ると奇妙なことである。図3を見てほしい。横軸には、各国の実質GDPを「Big Mac指数」と呼ばれる一種の実勢為替レートで平準化した数値を取っている。これは国全体の規模や豊かさを示している。一方の縦軸では、それを人口で割って国民1人当たりにした数値を取っている。これは人々の個人としての豊かさを示す(いずれも2010年度数値)。


photo 図3:世界各国の市場規模と消費者の経済的な豊かさ(公開統計を元に著者が作成)(クリックで拡大)

 これを見れば一目瞭然だが、日本は社会として米国に次いで圧倒的に豊かであることが分かる。グラフは対数軸なので、一目盛で10倍の違いとなる。日本は1人当たりの豊かさでは、中国と文字通り一桁違う豊かさを持っているといえる。

 また、個人としては世界一裕福だといえるルクセンブルクを見てほしい。個人としては豊かでも、国としてのGDP規模は非常に小さい。ルクセンブルクの企業家から見れば、日本はため息が出るほど巨大で均質な市場と映るだろう。もともとの母国が規模の小さな国では、スケールメリットを出すのは至難の業となる。これらを考えると世界全体から見た場合、日本は圧倒的に恵まれたビジネス環境であることが分かる。

 日本人にとって、海外ビジネスのハードルは高い。長年、海外で仕事をしてきた著者らにとっても、言語の壁、契約の壁、人材の定着率、どれをとっても頭の痛いことばかりだ。国内だけで商売できるなら、こんなにうれしいことはない、というのが正直なところである。それなのに、なぜ日本市場を大切にしないで、海外工場移転に走るのだろうか。どのような戦略のもとで、それを考えているのだろうか。そして、20ある立地基準の、どの基準を競争力の鍵と考えて展開しているのだろうか。

 筆者は、海外に工場を計画したいという顧客がいれば、全力でサービスする。それが筆者らの得意とする仕事だからだ。しかしその前に、なぜその国を生産の「適地」だと考えたのか、戦略的な視点から冷静に考えてほしいと願うのである。(連載 終わり


筆者プロフィル

佐藤知一(さとう ともいち)  Webサイト(http://brevis.exblog.jp/

佐藤氏

1982年、東京大学大学院工学系研究科修了。日揮にて国内外の製造業向けに工場計画・設計とプロジェクト・マネジメントに従事。特に計画・スケジューリング技術とプロジェクト評価を専門とする。工学博士、中小企業診断士、PMP。1985〜1986年、米国東西センター客員研究員。東京大学・法政大学講師。スケジューリング学会「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」主査、NPO法人「ものづくりAPS推進機構」理事。

  • 「時間管理術」(日経文庫、2006年)
  • 「BOM/部品表入門」(山崎誠氏と共著、2005年)
  • 「革新的生産スケジューリング入門」(日本能率協会マネジメントセンター、2000年)

田尻正滋(たじり まさじ)

田尻氏

1969年、東京理科大学理学部卒業。日揮にて石油・化学・天然ガスプラントの建設・保全プロジェクトに従事。1988年、独立コンサルタントに転進。1991〜2001年までニューヨークを拠点に北米各地で現地企業を支援。1995年よりAPO・JICA専門家としてアジア・オセアニア諸国の現地企業・政府機関を指導している。

  • 「TPM Implementation」(McGraw-Hill、1992年)
  • 「Autonomous Maintenance in Seven Steps」(McGraw-Hill/Productivity、1999年再版)
  • 「自主保養七階段」(中衛、2003年)



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