中堅製造業においてガバナンスはどのように分けて考えることができるでしょうか。ガバナンスを把握するためには、次の5つの領域にまとめて整理するといいでしょう。
それぞれの領域ごとに、その範囲と、プロジェクトの最初の段階で把握すべき内容を説明します。
一般的に、事業の方向性を見据えながら、プロジェクトの主要な目的を定義しますが、このとき、本社主導のプロジェクトが設定した主要な目的が、各拠点の事業方針と異なる場合には、各拠点とのすり合わせが必要になります。
このため、顧客ターゲットや提供する製品・サービスなど、事業計画に記載するような事業の方向性について以下のようなポイントを把握します。
例えば、プロジェクトではグローバル調達品目の増大・強化を目的に設定しているにもかかわらず、海外拠点の事業計画で拠点内のジャストインタイム(JIT)による在庫削減を掲げている、といったチグハグなケースもあります。これらの事業における方向性をしっかり把握しておくことが必要です。
ERPをグローバルで導入する場合、拠点ごとに、システム導入時の検討やロールアウトを行うメンバーの選定、工数の確保が必須となります。また、導入の効果を高めるために、組織の在り方や組織の業務範囲を変えることも考えられます。そのため次のようなポイントを把握しておかなければなりません。
ドラスティックに組織や業務を変更する場合には、拠点側の組織構造や人数配分、役割分担などを容易に変更できない可能性もあります。本社側の実質的な権限が及ぶ範囲について考慮しておく必要があります。
ERP導入の効果を高めるためには、業務を標準化・集約化し、同様のシステム機能を他の拠点に利用してもらうことが大切です。このため、業務の標準化・集約化を本社主導で決定できる実質的な範囲について、拠点ごと、業務領域ごとに把握する必要があります。
本社の影響力が強い場合は、ERP導入時に本社側で標準業務プロセスを定義してから、拠点に展開する手法を採用します。一方、拠点の影響力が強い場合には、本社側で定義した基本業務プロセスをもとに、拠点ごとに最適な業務手順を定義するような手法を採用します。
グローバルでERPを導入する効果の1つとして、統合情報の収集・分析が容易になることが挙げられます。このとき、情報の統合、切り口のキーとなるマスターデータをグローバルで統一することが求められます。
取引先や製品、組織、勘定科目など、経営管理や業務遂行に必要となる主要なマスターデータの管理を本社主導で行っているのか、拠点ごとで行っているのかを把握し、統合をどのように実施していくのかを検討する必要があります。以下のようなポイントを把握しなければなりません。
拠点ごとにシステムを導入していた場合と異なり、グローバル導入を行う場合は、基盤の構成や、調達・保守などについて、再検討する必要があります。このため、ITシステムの調達や保守・運用、セキュリティポリシーの策定・運用、外部委託先の選定・管理など、IT基盤の開発から維持・運用に関して、現在はどこが担当しているのかを把握します。
以下のようなポイントを考える必要があります。
企業において達成すべきガバナンスのレベルは、会社規模や事業特性、戦略などによって変わってきます。ERP導入においては、企業のガバナンスの強さや弱さが問題ではなく、本社と海外拠点での制度上の権限と実質的な影響力の範囲を明確にしておくことの方が重要です。権限や影響力の状況によって、ERP導入のゴール設定やアプローチ、実行手順が変わるからです。先述した各領域のガバナンスの状況を把握し、これを前提として、ERPの導入計画を策定する必要があります。
今回は、ERP導入の前段階で重要になるガバナンスについて解説しましたが、いかがでしたか。次回は、ERP導入の効果の考え方について紹介します。以前に比べて費用が下がってきたとはいえ、ERPは非常に高価な買い物です。具体的な事例を交えながら、ERP導入による効果と経営層を説得するポイントについて説明します。
(次回へ続く)
大手製造業企業で社内SE、大手SIベンダーでERPコンサルタントを経験し、スカイライトコンサルティングに入社。大手企業からベンチャーまで、幅広い会社に対してのコンサルティングを実施。経営管理領域を中心に、IT戦略立案から全社的な経営改革、業績管理制度の構築、業務改革、システム導入、新規事業の立ち上げなどのプロジェクトに携わる。中小企業診断士。
独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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