失敗しないERP導入プロジェクトの進め方(企画編)中堅製造業のためのグローバルERP入門(4)(1/2 ページ)

中堅製造業に効果的なグローバルERPの活用方法と、失敗しない導入方法を解説する本連載。今回から3回にわたり、ERP導入を成功に導くための重要なポイントについて、プロジェクトのステップごとに解説します。今回は、プロジェクトを立ち上げるための企画作りについて解説します。

» 2014年11月27日 09時00分 公開
[阿部武史/スカイライト コンサルティング シニアマネジャー,MONOist]
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 日系製造業にとってグローバル化が必須となる中、中堅製造業にとってもグローバル環境でのIT基盤整備が注目を集めています。その基盤となるERPについて、意義やメリット、失敗しない導入の進め方などを解説していく本連載。前回の「ERPの導入効果を整理して投資の妥当性を判断しよう」では、ERPを導入した場合の効果について解説しました。

 第4回となる今回から3回にわたって、ERP導入を成功に導くための重要なポイントについて、プロジェクトのステップごとに解説します。まず今回は、ERP導入プロジェクトを立ち上げるための企画作りについて説明します(図1)。ERP導入では対象となる業務領域が広いので、必ず組織横断的なプロジェクトになります。そのため複数の関係部署でERP導入の目的を議論・共有し、全社を俯瞰(ふかん)した企画書を作成することがプロジェクトを立ち上げる際の第一歩となります。

photo 図1:ERP導入プロジェクトのステップ(クリックで拡大)


企画を立ち上げるタイミング

 サーバやOSの保守期限切れが迫っていてシステムの入れ替えが必要だったり、長年改修を重ねた現行システムが複雑になり過ぎて保守費用が高止まりしていたり、といったことは、ERP導入を検討するきっかけになり得ます。

 ただし、システム面での必要性や課題解決だけでは、高額な費用に見合う効果が示せずに、経営層の理解も得られないでしょう。現行システムを単純に入れ替えるなど、別の解決策が考えられるからです。「現行システムだとリアルタイムで在庫が把握できない」や「各社で業務やシステムがバラバラで提示される数字が同じ土俵で比較できない」「海外拠点の状況を本社からでも見えるようしたい」といったことも同様に、個別の課題解決を目指すだけでは、ERP導入の動機としては不十分だといえます。

 ERPを導入すると、経営課題を包括的に解決できる可能性があります。情報システム部門だけでなく、経営企画や経理などの管理部門、営業や工場などの業務部門が協力して、導入の目的や効果を明確にすることによって、経営層に響くプロジェクトの企画を作ることができるでしょう。それぞれの部門が、全社的な経営課題の解決に向けて動き出そうという機運が盛り上がった状態が、ERP導入に適したタイミングといえます。

ERP導入の目的・達成目標の設定

 企画検討の段階では、「なぜERPを導入するのか?」(目的)と「ERP導入によりどのような効果を狙うのか?」(達成目標)を示し、ERP導入の必要性を明確にします。そのためには、組織横断的に関係者を集めて議論を交わし、目的と達成目標を決めることが重要な作業となります。

 前述したようにERP導入は対象となる業務領域が広いため、関連する部門も多岐にわたります。そのため、単一部門の思いだけでプロジェクトを始めるのではなく、主要な関連部門と事前に協議して認識を合わせておくことが重要です。関連部門の代表者が集まって議論し、全社的な経営課題にはどのようなものがあって、ERP導入によってどのように改善したいのか、方向性を明確にします。このプロセスを通じて、関係者間でプロジェクトの目的や達成目標に対する合意形成を図り、全社で一丸となってプロジェクトを推進できる土壌を作り出すことが成功に向けた第一歩です。

 また、会社の将来について考えている経営層としては「経営環境が大きく変動する中、5年10年先の環境変化に対応できるのか」という点も気になるでしょう。ERP導入では、既に発生している課題を解決するのはもちろんのこと、5年10年先を見据えて、将来的に発生する変化に対応できることが求められます。例えば、現在は国内生産した製品を輸出していても、将来的に海外に工場を建設し海外生産を推進する計画がある場合は、海外の生産拠点でも利用できる拡張性を備えておくべきです。このような将来的に発生し得る大きな変革への土台をどれだけ準備しておくかという判断によって、ERP製品の選定にも大きな影響を及ぼします。

 このようにERP導入プロジェクトは、過去から現在に至るまでに発生してきた全社的な課題の解決という“守り”の側面と、将来の変革を見据えた先行投資という“攻め”の側面を併せ持ちます。一般的に“守り”に目が行きがちですが、“攻め”の部分も考慮しておくことが重要になります。

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