海外法人の“損益だけしか見えない”経営では、ビジネスチャンスはありません中堅製造業のためのグローバルERP入門(1)(1/2 ページ)

日系製造業にとってグローバル化が避けられない環境になる中、中堅・中小クラスの製造業でもグローバル拠点の設立が必要とされるようになってきました。しかし、大企業と異なり、より効果的に、経営状況が適切に見える仕組みを導入しなければ中堅以下クラスの製造業にとっては勝ち目がありません。そこでより効率的にグローバル対応を進める仕組みとしてERPが再び脚光を集めています。本連載では、中堅製造業を対象にグローバルERPの価値と、失敗しない導入の仕方を解説します。

» 2014年07月29日 09時00分 公開
[阿部武史/スカイライト コンサルティング シニアマネジャー,MONOist]

 新興国市場の成長や国内市場の縮小などから、日系製造業にとってグローバル化は欠かすことができない環境になっています。大企業にとっては既に各国に拠点の網を張るのが当たり前の時代。しかし、中堅・中小製造業にとっては、今なお体制整備の真っ最中という企業も少なくありません。そんな時に重要になってくるのが用地の確保や工場建設、人材の採用などとともに、IT基盤をどう構築するのかということです。海外展開しながらも本社との一体経営を行い、中堅・中小企業らしい小回りの利く、機動力のある経営を行うには、IT基盤整備は欠かせません。

 本連載では、グローバルに事業展開する中堅規模の製造業の皆さまに向けて、グローバル環境での経営管理基盤として有効なERPについて、その本質的な意義やメリット、失敗しない導入の進め方などを解説していきます。

 グローバルに事業展開する場合、業務の効率化や経営の可視化はどの企業にとっても重要な課題となってきます。大企業であれば、人材を豊富に抱えているので、システムや業務の専門知識を有する社員を専任でプロジェクトに参画させたり、外部のコンサルタントやシステムベンダーに多額の費用を払い、システム導入のプロジェクトを推進することができます。しかし、人材や資金に限りがある中堅企業では大企業と同じようなやり方は難しく、異なるアプローチでシステム基盤を構築する必要があります。その際、有効な解決策となり得るERPについて、本連載を通じて理解を深めていただければ幸いです。




製造業を取り巻く環境の変化

 リーマンショック後の国内景気の低迷・市場の縮小や新興国市場の発展を受け、日本の製造業における海外進出には拍車が掛かっています。中堅・中小規模の製造業でも、最終製品のセットメーカーなど顧客企業の海外進出に追随し、事業をグローバルに展開することはもはや欠かせないようになりました。ビジネスモデルや商流も、従来は国内生産した製品の輸出や海外工場で生産した製品の輸入など、比較的シンプルな形態であったものが非常に複雑なものになっています。

 従来は生産拠点であった新興国が、今では消費地としての位置付けに変わるなど、ビジネスの主戦場が新興国を中心に激変しています。先進国や新興国などの混在するグローバル経済において、これらを相手にしたビジネスを構築しなければ、中堅製造業でも生きていくことは難しくなっています。そのため「海外事業をどう強化するか」は大きな命題となってきています(図1)。

photo 図1:製造業のグローバル化の進展イメージ(クリックで拡大)

経営管理の現状

 海外事業の立ち上げ期では、まずは事業を軌道に乗せることが重視されます。顧客の求める品質や納期を守り、製品を無事に納品することを、第一優先に考えることになります。このような状況下においては、経営管理の仕組み作りは後回しにされる傾向があり、海外拠点に対するガバナンスの整備も遅れがちです。

 結果として、「海外拠点の状態が見えない」「変化に対してタイムリーに手が打てない」などの声もよく耳にします。実際に各サイトの状況を確認しようにも、海外法人からの情報は月末の締日から1カ月遅れでB/S(バランスシート)とP/L(損益計算書)が送られてくる、といった状況の会社が多いのではないでしょうか。例えば、このような状態であれば、決算を締めるまでは、海外法人の損益が見えず「ふたを開けてみれば赤字だった」という事態も頻発することになります。

システムの現状と海外展開時の課題

 一方で、それぞれの企業のIT基盤を見てみましょう。主に国内中心に事業を展開していた状況では、工場や営業拠点において、独自開発したシステムを使っている企業が多いでしょう。細かい不満はあるものの、自社の業務に合わせて作られたシステムであるため、日々の業務を遂行する上では問題なく運用できているのではないでしょうか。

 ただし、国内で使用するには問題ないシステムでも、海外拠点に展開すると、いくつもの課題が生まれてきます。まずは、進出先拠点で稼働させるためには、言語や通貨、独自の商慣習や法制度への対応など、多くの機能追加が必要になります。また、拠点ごとにシステム部門が管理するシステムが増えるため、保守・運用の負担も大幅に増加してしまいます。

 現実的に多くの中堅企業では、本社のシステム部門で海外拠点のシステムまで管理する余力がないので、拠点ごとに独自にシステムを導入する、という状況になりがちです。そうなると、データが完全に分断され、前述したように月次の財務諸表で、大幅に遅れた状況でしか拠点の状況が把握できない事態に陥ってしまいます。これでは、グローバル競争において、即断即決が要求されるスピード感の中で勝ち残っていくことはできません。

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