さて、アウトランダーPHEVで発生した電池セルの不具合の原因ですが、何と、電池セルのサプライヤであるリチウムエナジー ジャパンで製品検査を効率化するために導入された工程によるものでした。
「スクリーニング」という工程なのですが、これは電池セルにさまざまな方向から振動を与えて異物の検出を早期化するというもの。
販売店で起こった“満充電にならない”という不具合事例に関しては、このスクリーニング工程にて振動を与えすぎたことで内部部品が剥離したことが原因だそうです。
i-MiEVやアウトランダーPHEVに使われている「LEV-50」というEV専用のリチウムイオン電池セルには、正極にアルミニウム、負極に銅を使っています。このうち、負極の銅片が、加振した際に剥がれ落ちたというのです。
そして発熱・溶解に関してはさらにショッキングな原因でした。
LEV-50は1つの大きさが約1kg。懐かしのVHSテープを一回り大きくしたような形状なのですが、これをスクリーニングの機械にセットするのはまさかの手作業で、何と、その際にLEV-50を落下させたことによる内部破損からの内部短絡が原因。
内部が破損した電池セルを充電器につないだため破損部が発熱し、負極が膨張して発熱、溶損に至ったとのことでした。
さらに水島製作所でのバッテリーパックの発火は、その工程に加え、検査時にふたを開けたことにより空気が流入して起こるという、検査時にしか起こらない事象でした。車両を市販する際には、バッテリーパックや電池セルは密閉したままなので発火は起こり得ないという説明でした。ですから、走行中にいきなり燃え始めるということは、今回の不具合では発生しないということになります。
しかし誰もが、きっと読者の皆さまも思われるのではないでしょうか。
「え、落としたヤツ使ったってこと?」
と。
ていうか、こんな21世紀の乗り物の代表格みたいな最先端カーの、しかも今んとこ一番キモでありつつ、だからこそなんだかんだやり玉に挙げられがちなリチウムイオン電池っていう厄介な部品に関して、そんな初歩的なミスってあり得るん? と。
……残念ながらあり得たみたい。
ネコ型ロボットが大量生産される夢の22世紀に近づくには、やっぱりこういった昭和的な階段を一足飛びでなく1つ1つ、面倒ながらも着実に登らなければ到達できないということなのかもしれません。
三菱自動車およびリチウムエナジー ジャパンは、この『スクリーニング工程』を全面廃止。試験の際に完全に人の手が介在しないようにし、異物混入への対策はスクリーニング工程による検査から集じん力の強化に変更しました、また、異物判定のための観察時間を、不具合発生以前の6時間から12時間と2倍に延長することで信頼性を保つという対処がなされました。
ちなみに、どうしても人の手による作業が必要な場面、例えば運搬などに関しては、監視カメラを設置するなどして人為的ミスをなくすように既に改善されているそうな。
しかし立派だったのは三菱自動車の素早い対応だったと思います。
三菱自動車の不具合対応と言えば、あの2000年のリコール隠しのことをやっぱり思い出してしまうのですが、今回は正々堂々、公明正大でした。
このリコールを受けて発生した納車のキャンセルは約1000台。
しかしあまりに多くのバックオーダーを抱えているため、売れると見込んだディーラーが発注をキャンセルしないという現象が、現在輸出をしている国々で起きているそう。
また、欧州でもCO2排出量の少ない車両を優遇する税制のために、未導入国から問い合わせが続いているようです。発注はあるが生産が間に合わないといううれしい悲鳴を上げる三菱自動車。
1回乗ったら本当にすてきだと分かるクルマだからこそ、ぜひ巻き返して欲しいものです。
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