4.エジェクタピン(緑色)により、成形品(赤色)を金型から引き離します(図7)。
エジェクタピンを動かしている板が突出板です。そして、その突出板を動かしているのが成形機です。
5.成形品を金型から取り出します(図8)。
取り出す方法は、自然落下や、手作業によるアナログな方法、専用機械やロボットを用いたメカニカルな方法などさまざまです。その会社の設備や、製品の仕様によって取り出し方法が決まります。例えば、表面を傷つけたくないような製品なら、自然落下は採用できません。
6.次の成形をするために型を閉じます(図9)。
固定側が突出板を押し戻します。このとき、最初に固定側に当たるのがリターンピンです。エジェクタピンは製品形状部に設定されているのに対して、リターンピンはPLと呼ばれる固定側と可動側が合わさる製品形状以外の部分に設定されます。そのため、製品の肉厚分、リターンピンがエジェクタピンよりも先に固定側に当たります。
7.そして型が完全に閉じて「1」の状態に戻ります(図10)。
この1〜7までの動きを繰り返すことで、金型から成形品を大量に成形・生産していきます。
また、6〜7の突出板が完全に元の位置に戻る過程で、リターンピンの補助としてスプリングなどを設定し、突出板の戻りを確実にするのが一般的です。
ここまで金型の基本構造について説明してきましたが、やっと今回の本題です。金型設計を始める前に確認しておきたい5つの項目の最後の5つ目「成形機の確認」の説明です。
「成形機(正確には「射出成形機」)」とは、「金型から製品を作り出すための機械」です。
「金型」とは、「製品を作り出すための治具」、すなわち“器”です。金型だけで製品が成形できるわけではありません。金型を成形機に取り付けて、成形機より金型に樹脂を射出することで初めて製品が成形されるのです。それがいわゆる「射出成形金型」であり、「金型と成形機の関係」ということになります。
金型を成形機に取り付けるためには、幾つかの制約があります。当然、金型には成形機の仕様を盛り込んで設計しなければなりません。「金型を作ってみたら、成形機に取り付かなかった!」ではシャレになりません。ですから、成形機の仕様は設計の段階からしっかり確認しておく必要があります。
さて、この成形機ですが、メーカーによって、あるいは型締力(成形機が金型を締め付けておく力のこと)の違いによって、非常に多くの種類があります。
例えば、自動車のバンパーと携帯電話のカバーでは、製品サイズに大きな差がありますが、当然、金型の大きさも同様なことがいえます。これらを同じ成形機で作ろうとするのは、どう考えても無駄なことです。……というか、バンパーが成形できるような大きな成形機に携帯カバーのような小さな金型を取り付けたら、型が壊れてしまいます!
ですから、バンパーの金型と携帯電話の金型では違う成形機を使います。もちろん、それぞれの成形機の仕様も異なってきます
では、成形機によって決まる金型の仕様にはどのような種類があるのか、確認しましょう。
「ノズル」は樹脂の射出口、「タイバー」は成形機の固定・可動盤を支えるガイド部品です
以上で、「金型設計を始める前に確認しておきたい5つ項目」については全て確認できました。前回も説明しましたが、この5項目以外にも「会社独自の仕様など」他にも確認すべき項目は出てくるでしょう。しかし、今回取り上げた5つの項目は金型設計における最低限必要な項目なので覚えておいて損はないですよ。
さて、次回からはいよいよ具体的な設計に取り掛かりましょう。
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。2010年に株式会社モールドテック代表取締役に就任(2代目)。現在、本業の樹脂およびダイカスト金型設計を軸に、中小企業の連携による業務の拡大を模索中。「全日本製造業コマ大戦」の行司も務める。また、東日本大震災をうけ、製造業的復興支援プロジェクトを発足。「製造業だからできる支援」を微力ながら行っている。
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