即使える! L字板金のクラック対策テクニック集甚さんの「バンバン板金設計でキャリアアップ」(2)(3/3 ページ)

» 2012年07月06日 11時00分 公開
[國井良昌/國井技術士設計事務所(Active Design Office),@IT MONOist]
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隣国の技術者は、「h’」づくりに必死!

 筆者は、ほぼ毎月、クライアントである隣国の巨大企業を訪問しています。前記「a〜f」が「セミナー・メニュー(技術者指導要綱)」「gとh」が「コンサルテーション・メニュー(企業経営指導要綱)」となります。

 隣国の技術者は、同時通訳者を介して筆者のコメントを必死にメモします。なぜならば、前記「h」の前にある「h’」、つまり「個人ノウハウ集」を作るためです。

 これにより「寸志」ではなく、確実に「年棒」がアップします。この企業の給与体制は「年棒制」なのです。年棒をアップさせる切り札がなくなったとき、彼らその会社を自ら去ります。「ダメだ」と判断すると、なるべく早期に決めるのです。

 それができるのは、外部に「受け皿」があるからです。

 その受け皿の中で、再び、自分の「一番目の切り札」から披露すればよいわけです。ただし、それも自分自身が“旬なうち”です。「早期」の理由が容易に理解できるでしょう。

 いつまでも、巨大企業にしがみついていると、旬ではなくなり、「受け皿」がなくなります。まるで、日本企業にいる中高年のように……。

良

なんか、隣国企業の躍進、日本企業衰退の「真の原因」が分かったような気がします。多分、衰退の原因は、「大震災」「海外生産地の自然災害」「長引く円高」……これらは、真の原因ではないと思います。


甚

さすがは院卒だ! 実務はダメでも、分析力は素晴らしい。しっかしよぉ、今回の衰退は「根」がふけぇ〜ぞ。


 上の巨大企業では隣国技術者は約10年残り、日本人技術者は2年で企業を去ったと聞いています。

 これを「成果主義」「実力主義」といいます。とてもフェアな制度です。共通のキーワードは、「年棒制」です。かつての野茂選手や新庄選手のようなプロ野球選手も同様ですね。

良

僕は賛成だな。“主席の院卒”(僕)よりも、専門学校卒のエリカちゃんの方が、年棒が上でも「しょうがない」と思いますよ。だからこそ、挽回やリベンジに燃えることができるんですよね。


甚

オメェ、一体どうしたんだ。急成長だなぁ。「図面読めねぇ描けねぇ院卒」「実務能力ゼロの役立たず」「オメェのCAE業務は、ほとんど“仕事”になってねぇ」――いろいろ言ってきたけど、悪かったなぁ。つい、本当のこと言っちまって。


良真剣

ほっ、本当のこと!? ……反論できないですけど。


 a〜fをテーマにしたセミナーの当日、隣国では会場の前席から埋まっていきます。遅く来ると、1日中、立ち見席になってしまいます。日本で同様のセミナーを開催すると、会場の後部両端の席から埋まります。

 「隣国と日本の差とは、何か?」――それは、技術力の差ではありません。モチベーションの差です。

 筆者のクライアント企業の社長や技術系役員には、早期に現行の「“日本式”成果主義」を撤廃し、「年棒制」への移行、そして設計者たちを「1軍」「2軍」に分けること提案しています。

 中小企業は、すんなりと同意してくれますが、大企業は非常にそれが困難です。しかも今は、大企業の方が問題なのです。その根は深いような気がしています。

L字板金にクラックが入らないようにしたい

甚

そんじゃ、先へ進むぜぃ! 図4を見ろ〜! 木造家屋でよく見られる柱だ。耐震構造を満たすためによぉ、T字形やL字形の板金で隣り合う柱を連結させて補強しているんだぜぃ。


良

知ってますー。うちの近所のDIYショップで売っていますー。


 仮に、このL字板金に大きな曲げモーメントが掛かって、図中の隅にクラックが入ったとします。なぜ、クラックが入ったかというと……、図中下部における「応力分布図」を見ると分かります。圧縮応力よりも引張応力が極端に大きいため、板金の隅からクラックが入ったと推定できます。

図4 L字形補強板金のクラックと応力分布図
甚

オメェ、「クラック対策」の手段について言ってみやがれ! オメェお得意のCAEを駆使してもいいぜぃ。


良真剣

ガッテン、承知!


 さて、皆さんがこのL字板金にクラックが入らないように設計変更する場合、どのような手段を取りますか? まず、良君と一緒に考えてみてください。

 次の図5と図6に示す、5つの対策手段が、甚さんの「設計サバイバル術」における「小道具」の一例です。

  1. クラックが入った隅の対極の角をC面で落とす。そうすると、最大引張応力を減らし、圧縮応力と引張応力をほぼ均等にできる。つまり、圧縮応力と引張応力を相殺することで、隅にクラックが入ることを低減する
  2. 隅にRを設ける。これは「設計サバイバル術」の「大道具」である(図5を参照)
  3. 隅の周辺を絞り加工で縁取りする
  4. 板厚を増す
図5 L字形補強板金の各種クラック対策

 最後の1つは、図6です。前記1+2の合体策で、加工性と低コスト化を考慮したものです。

図6 L字形補強板金のクラック対策の最適化

 いかがでしょうか? 実は、面白い対策が、もう1つあるのです。そのヒントは、「断面急変の要素形状ではない、円(丸穴)を利用するアイデア」です。その答えは、次回までのお楽しみ。

良真剣

甚さん、僕、今の会社を辞めて、隣国企業へ転職しようと思います! このまま、あんな課長の下にいたら、いつまでも、エリカちゃんを抜けません。「年棒制」で、自分の実力を知りたいのです。そう、プロ野球選手のように!(キリッ)


甚怒

おいっ! そりゃ、随分とワイルドだなぁ! いっちょ、人生の荒波に揉まれてくる……か、い、


甚暗

あっ、いんや〜っ! それは、ちょ、ちょいと待っチくれねぇかい……。


良

えー、どうして待たないといけないんですかー? 早くしないと……。


 さて、どうなるのでしょうか? でも良君、大丈夫なの!? 次回をお楽しみに!



Profile

國井 良昌(くにい よしまさ)

技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会、埼玉県技術士。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。

1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)をはじめとする多数の書籍を執筆。



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