今回は、コスト見積もりを復習してから、断面探索スキャンと絵辞書を駆使した板金設計をしよう。
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生まれのイマドキな若者。機構設計者。通称、良君
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
日本人設計者の弱点は、
もう何度も書いたので、「あぁ、またか!」と思う方々も多いのかもしれません。しかし、「隣国企業にそれを全て分析されていること」はまだお伝えしていませんでしたよね? 一般の方々は、たったの「3項目」と見るかもしれませんが、数人の専門家を集めれば、今日の造船、液晶TV、スマートフォン、ソーラー、家電品、レーザー複合機などの首位を奪われるところまで予測できたと思います。
ミサイル発射台に関する1枚の衛星写真から、その国の軍事力もうかがえるのと同様ではないでしょうか。
筆者ですら、その国の「ゴム製品」を分析すれば、工業力や軍事力が推定できます。これが、コンサルタントという職業です。
さて、前回のDIY店で販売されている補強金具の設計見積もりはいかがでしたか? 一度で完全に理解するのは無理かもしれません。2〜3度繰り返して読んで、職人として重要な知識の理解を深めましょう。
早速ですが、前回の記事を読んだというAさんから以下の質問をいただきました。
いつもためになる記事をありがとうございます。早速ですが、質問させてください。ロットが100以下、例えば5台や10台のときは、どう計算すればいいでしょうか? よろしくお願いします。
ロットが100以下、例えば、5台や10台などの場合は、前回3ページ目の図3の線分を延長して読み取ってください。
なお、1台の場合は、前回の1ページ目「甚さんの『コスト/価格関連の簡易辞書』」にある「言い値」となります。
ここに示した「甚さんのコスト/価格関連の簡易辞書」は、Aさんが学者ではなく、筆者同様の職人ならば、必携の辞書です。
さて、世界に「1台」しかないスポーツカーは、1台10〜100億円といわれています。日本の一般大衆車は、1台200万円前後ですが、試作時のそれは、なんと1台数億円です。
世界に1着しかないという、元サッカー選手のN.Hさんのスーツは350万円です。
従って、1個(本、台、冊、着など)の値段はありません。シート1の「言い値」となります。「高い」というならば、売る側と買う側での相談となります。つまり個人の欲望の世界で、グラフで表せるデータや数値は存在しないのですよ。
甚さん、確かにその通りですね。前回で見積もったあの板金(補強用金具)だって、世界にたった1つしか注文しなければ「1億円」と言われても仕方がないですよね。
そうだ。しかし、1億円では「暴利だ!」とか言われそうだなぁ〜。それなら自作する人も出てくるだろう? そこで出てくる単語が「相場」だ。この後に解説が出てくるだろうよ。
さて以下は、同じく前回の記事を読んだというBさんからの質問です。
國井先生、お忙しいところ失礼します。例えば、単品〜小ロットの手作り板金の場合だと、工場の設備の事情や設計者の交渉次第の値段ということになりますか?
ほぼ、その通りだといえます。ただ「交渉次第」というよりは、「相見積もり(アイミツ)」ですね。
大企業や中小企業の場合、調達部もしくは資材部がありますが、その部員が価格交渉しています。1社と交渉することはナンセンスで、普通は2社、3社、4社と交渉することで相場が判明します。相場とは、いわゆる「適正価格」のことです。
官公庁の場合は、「入札」に相当するでしょう。裏で入札価格を相談すると、「談合」と言って違反行為となります。有名な事件が数多くありますね。談合は、「相場」「適正価格」が不明となるため、独占禁止法に違反する他、刑法の談合罪で処罰されます。
さて、Bさんが“すてきな一戸建て”を計画している場合、住宅メーカーの標準タイプから選択すると思います。それだと1万〜10万戸の中の1軒を選択することになるので、良質な一戸建てを低価格で手に入れることが可能です。そのときも住宅メーカーなどから見積もりを取るはずです。
「既成の一戸建ては嫌だ!」ということなら、テレビ番組で有名なデザイナーの設計した住宅を注文します。このとき、設計料だけでも建築費用の10%を支払います(ハウスメーカーの住宅は既製品なので設計料は取りません)。Bさんは、デザイナーに対しても、それを請け負う建築業社に対しても、相見積もりを掛けますよね? これがつまり、価格交渉の第一歩となります。
これは一戸建てを欲する万人が実施している行為です。このように技術者でない人たちも相見積もりをしています。この相見積もりの中に「価格交渉」の行為があります。「板金部品見積もり」「樹脂部品見積もり」「回路基板見積もり」というと、何か特殊な世界だと誤解されそうですが、一戸建ての例のように誰でも経験することです。
またBさんが住む市役所も県庁も「入札」という「交渉」をしているわけですね。
甚さん、よく理解できました。簡単に言えば、単品〜小ロットのコスト見積もりの場合、「相場を知るために」相見積もりして、コストを求めるのですね。
その通りだ。コスト見積もりのプロには他の手もあるが、オメェのような設計者の場合は、それで十分だ。
「Q&Aコーナー」はこれぐらいにして、違う話題に移りましょう。片仮名の職業名は、「ちょっと格好いい」「高収入」と思われることもあります。
フリーターとコンサルタントも、ですね……。
今や上記のように、さまざまな“片仮名職業”が世の中にあふれており、誰もが大変厳しい環境に置かれています。収入面においても、驚くほどの優位性はありません。片仮名職業でも、通常名の職業でも、モチベーションのレベル次第で、格好良さも収入も決定する時代だと筆者は思います。
さて設計コンサルタントである筆者のクライアント企業は、主に国内の大企業ですが、その大企業が「ちょっと”あやしく”て、明日はない」という状況もあります。コンサルタントは常に、金持ちと付き合う商売です。
その金持ちとは、隣国の大企業です。なんと、国内の2.5倍から5倍のコンサルタント料を支払ってくれます。しかし、体力も知力もそれなりに、2.5〜5倍は費やされます。
以下の会話は、第3回からの抜粋です。
このまま、あんな“出世逃げ課長”の下にいたら、いつまでも、設計アシスタントのエリカちゃんを抜けません。年俸制で自分の実力を知りたいのです。プロ野球の選手のように。
そうか、荒波にもまれてみたいのかぃ。しかし、オメェの今の実力では、結構厳しいぞ。居心地のいい日本企業に、すーぐ逆戻りする羽目にならあな。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.