実は、プロの技術の1つ1つに難しいことはない。その組み合わせ方に極意あり! 組み合わせの技術で品質とコストの両立をかなえよう。
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生まれのイマドキな若者。機構設計者。通称、良君
沢田恵梨香(さわだ えりか)
ADO製作所 PC事業部 設計2課に勤務する派遣社員。良君のい〜加減な設計を製図でしっかりフォローする優秀な設計アシスタント。製図専門学校卒。通称、エリカちゃん
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
あっという間に5月の連休が終了しましたね。4月入社の新人技術者は、中小企業ではいきなりの職場配属、大企業では6月の配属を目指して、新人研修の真っ最中といったところでしょうか? 以下に、当事務所Webページの「ご質問コーナー」に実際に入ってきた新人技術者の悩みをまとめてみました。
いずれにも筆者は、「大丈夫です。半年や2、3年で退職するなら話は別ですが、これから何十年と勤務するのですから、自己研さんを重ねてじっくりパワーアップしてください」と双方の新人技術者へコメントを返しました。重要なことは自己研さんなのです。学校とは異なり、職人は自発的な学習態度がなければ、どのような職業にも就けません。
さて、どのような業界でも、新前(新人)を一人前にするための教育を「修行」と言います。
前述の大企業における新人教育で、筆者は驚愕(きょうがく)する実態を目の当たりにしました。なんと、そのカリキュラムが以下の類(たぐい)だったのです。
おぉ、ちょいと待て。新人技術者の修行がいきなり製図かい。それはよぉ、新前の料理人がいきなり料理して、「白い皿に盛り付ける」ことと同じだぜい。
そうみたいですよ。私の友人も大手電機メーカーへ派遣されていますが、いきなり製図の研修だったそうです。
べらんめぇ! 大企業の設計ってそんな簡単な職種だったのかぁ? 楽なもんだぜぃ、あん? 料理人のようなつらい「修行」はねぇのかい?
タレントや俳優を招いて司会者とともに料理を作るテレビ番組があります。番組の冒頭では、街の有名料理店で修行する新人君の頑張り具合を特集しています。どの店の新人君も毎日毎日、食器を洗い、道具を洗い、閉店後のキッチンは、まるで鏡のようにピカピカに磨きます。
そして、彼が店を出るのは午前さま。翌朝は誰よりも早く出勤し、昨日と同じように何百個というジャガイモや玉ねぎの皮を剥き、パスタ用の小麦粉を全力で練ります。機械は使いません。一体、いつになったら料理を、いつになったら白い皿に自分の料理を盛ることができるのでしょうか?
「白い皿に料理を盛る」――設計者にとって、この行為が製図です。従って、「はじめての設計」や「設計者の心得」が、加工法の知識や部品の設計法や製図法のはずがありません。皿への盛り付け方は、料理人の最終工程です。製図は設計者の最終工程です。
それでは、新人技術者にとっての重要な「修行」とは、何でしょうか?
私も、ぜひ、知りたいわ!
そうかぁ、そりゃ感心なこっちゃ。それは、だなぁ……。
新人設計者の修行が、製図や構想設計でないことは何度か解説してきましたので、理解できたと思います。
それでは、あなたがベテラン設計者になったとき、さらに目指す設計者の「頂点」は何だと思いますか? それは、同系列の技術ですか、もしくは、さらに深入りした技術ですか?豊富な技術ノウハウやテクニックですか? それは、違います。
設計の頂点は、「コミュニケ・プレゼン・スキル」(コミュニケーションとプレゼンテーションのスキル)です。
図1を見てください。新人設計者の心得として、始めに習得すべき能力が「コミュニケ・プレゼン・スキル」であり、設計者として熟した最後の頂点も「コミュニケ・プレゼン・スキル」なのです。
もしかして甚さんは、これをずぅ〜とぼくに説いてきたのですか? この特訓でも、コミュニケーションしていますよね。今、あたらめて理解できました。ありがとうございます。
よかったですね、国木田さん。仕事を取りにいくCAE。技術者の鏡だわ〜。その根源が「コミュニケ・プレゼン・スキル」だったのですね。甚さん、今度、私にも詳しく教えてください。
いやぁ〜、照れちまうじゃねぇかい!
そんじゃ、気分のいいところで、本題の「バンバン板金」にへいるぞ! 今回はだなぁ、これだぜぃ!
前回は、エリカちゃんと良君から大変重要な言葉が出てきました。以下のせりふです。
私たち派遣設計者は、接地のノウハウを持っていないと指名がこないんですよ。それほど機械設計者にとっては重要な設計要素です!
そうか! あらためて思うことは、設計って組み合せの技術なんですね。
エリカちゃんのせりふは、前回で何度もその重要性を解説しました。そこで、今回は良君のせりふに注目していきます。
設計者、設計職人とは、「発明」してはいけないとまでは言いませんが、設計とは、全てが「組み合わせの技術」なんです。
従って、難しいことは何もありません。
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