四節リンクの機能上の代表的な設計ポイントは次の項目のどれか、あるいは優先順位を決めた上で複数項目を組み合わせることです。
No.20、No.21のリンク機構は簡単な構造なので、設計するときについ寸法公差を失念してしまったり、いいかげんな寸法公差を指示してしまったりと油断しがちになりますが、支点の位置とリンクの穴ピッチの寸法精度は重要な要素です。
支点位置やリンクの長さにばらつきが発生すると、図5のように、制御上、あるいは不意な電源断によって偶然に思案点で停止することが考えられます。
その後、駆動リンクを継続して動作させた途端、従動リンクの動作方向が追従せず反転することがあります。
これは機構設計上、長さや位置のばらつきは排除できないために発生することです。
また、思案点では中間リンクと従動リンクが一直線上に並んでいるため、駆動リンクの回転力をほかのリンクに伝えることができず、機構がロックして動作できない可能性も否定できません。
制御プログラム上で、例えば再起動時は低速で1回転以上させてから慣性モーメントを利用しながら定常回転まで増速させたり、機構ロックを防止するために動作開始時は瞬間的にアクチュエータを正逆回転させてから要求される方向に回転させたりと、メカだけではなくソフト制御まで検討し、可能性のある不具合を未然に防ぐ手段を考えなければいけません。
思案点考慮の重要性は、前回の1ページ目のコラムで説明した通りです。
リンクのそれぞれの支点部には、わずかですが、がたつきを持った設計がされているため、がたつき分が重力によって垂れ下がることが“期待”できます。しかし、設計者として、“期待”は禁物であることは十分に認識しなければいけません。
設計とは、重力や慣性モーメントなど自然法則の原理原則の下でアイデアを具現化しますが、さまざまな条件(渋りや振動など)が重なることで自然法則を利用できない条件があることを肝に銘じましょう!
設計者の“期待”だけでは、いつか不具合が発生してしまいます……。
ここでは思案点の問題をメカ的にリンク機構で解決する手段を紹介します。
思案点は、駆動リンクが従動リンクに回転力を伝えるのに不利な位置にあるといえます。思案点で停止する可能性がある場合は、図6に示すように思案点となる節以外の節で確実に動作保証できる多節リンクにすることで、多少のコストアップにはなりますが、伝達力は保証できます。
前述のリンク長さのばらつきを設計上で許容し、極端にリンクの長さを変えることで反転する機構を考案することができます。駆動リンクを従動リンクより短くして不等長にしたリンク機構です。駆動と従動のリンクを不等長にすることで駆動リンクが1回転以上するクランク運動をしても従動リンクは回転できず揺動運動します。
図7のアニメーションから、駆動リンクが2回転すると従動リンクが1往復することが分かります。ただし、駆動リンクの角速度と従動リンクの角速度は一致せず、加減速しながら従動リンクが揺動することも分かります。
リンク機構を設計する場合、ほんの一瞬通過するだけの思案点について、イレギュラーな状態で停止した後に起動する際の不具合を予測して検討しなければいけないということが分かったと思います。
製図の際に寸法公差を指示し忘れると、「組めたけど渋って動きが悪い」「動作が思った方向と違う場合がある」などの不具合が発生します。寸法公差はもちろんのこと、必要があれば幾何公差も考慮しなければいけないという意識を持って設計してください。
次回はクランク機構の応用編として、その他のクランク機構やクランク機構を用いた航空機に見られる車輪格納装置の動作特性や特徴を確認しましょう。(次回に続く)
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