スライダクランクの代表例でスライド機構の仕組みについて解説。ほかにもスライド機構設計のキモを紹介する。
前回は、回転運動を行うクランク機構を使った応用例を紹介しました。今回は、四節リンクのジョイントのうち、1つのジョイントを滑り対偶(スライド構造)としたスライダクランク機構を紹介します。まずは「スライダクランク機構とはどんな機構か?」を確認しましょう。
駆動リンクが回転すると、中間リンクに引っ張られたり押されたりして支点(水色の丸)が長穴で規制された溝の中を直線運動する構造です。
図1のアニメーションから、駆動リンクが時計でいう12時の位置(垂直位置)を基準として回転させると考えた場合、9時の位置(死点)のストロークXと3時の位置(死点)のストロークYでは、X<Yという関係になることが分かります。
図1の動作を頭の中でイメージすると、時計でいう12時の位置(垂直位置)からリンクAを左右に同じだけ回転したときのピンの移動量は同じであるように想像してしまいます。
そこで、本当にストロークが異なるのか計算で確認してみましょう。
初期位置でのリンクは直角三角形をなしています。
引き込み位置におけるピン中心点の移動距離Xは、次のように表されます。
X=a+c−b
押し出し位置におけるピン中心点の移動距離Yは、次のように表されます。
Y=a+b−c
上記では、長さ寸法がa,b,cとなっており、イメージがつかめません。そこで直角三角形であることから三平方(ピタゴラス)の定理「a2+c2=b2」を利用し、一般的に三角比として覚えられている「a=1、b=2、c=√3(1:2:√3の比)」と「a=c=1、b=√2(1:1:√2の比)」の2種類の比率を使って、キリのよい数値を当てはめて計算してみると、はっきりと違いが出ることが分かります(図3)。
スライダクランク機構を実用化した代表的な機構に、自動車のエンジンがあります。
上記No.30の機構と自動車のエンジンを比較して決定的に違うのが、動力源となるジョイントです。No.30ではクランクの支点にモータなどのアクチュエータが動力を与えるという前提でスライド運動を実現させます。
しかしガソリンエンジンの場合、シリンダーの中に噴射した燃料に着火・爆発させることでピストン側から動力を得ます。このときに問題になるのが、ピストンの死点位置では回転動力が途絶えることです。
エンジンでは多気筒(通常3〜6シリンダ)の物が一般的で、1つのシリンダが死点にあっても、ほかのシリンダが死点を外れていることにより、クランクシャフトに回転動力を連続して与えることができるのです。
図4に示した自動車エンジンの下部で回転しているものをクランクシャフトと言います。クランクシャフトには、ピストンやコンロッド(ピストンとクランクシャフトを連結する)で生じる振動を軽減するための「カウンターウェイト」と呼ばれるバランサーが付けられています。
「クロスプレーン」形式と呼ばれるクランクシャフトの場合、4気筒エンジンであれば1番目と2番目のカウンターウェイトは90度の位置関係にあり、2番目と3番目、3番目と4番目も同様に90度ずつ位相がずれています。
先日、愛知県名古屋にある「トヨタテクノミュージアム産業技術記念館」に見学に行った際、クロスプレーンのクランクシャフトの製造工程が展示されていましたので紹介します。
下記の写真では、6気筒エンジン用のクランクシャフトのため、120度位相に製造していきます(トヨタテクノミュージアムで撮影しました)。
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