Webコンテンツやアプリケーションのユーザーインタフェースをスマートフォンから設計し、それをPC用に移植するという考え方(モバイルファースト)自体は、日本ではなかったかもしれない。しかし、ネットワークサービスを考えるとき、ネットワークにつながるハードウェアを企画するとき、その頭の片隅には必ず携帯電話の存在があったはずである。
ただ、当然、携帯電話中心の当時のモバイルネットワークと今とでは違いがある。それは、携帯電話事業者と端末メーカーの協業で作り込みが行われていた、いわゆる“ガラパゴスケータイの時代”とは異なり、インストーラブルなアプリケーションの活用幅が広いスマートフォンの比率がグングンと上がってきていることである。
それが何を意味しているかというと、従来(ガラパゴスケータイの時代)、「コストが掛かり過ぎる」、あるいは「端末メーカーや携帯電話事業者の協力が得にくい」「特定の機種だけでサポートしても普及しない」などの理由から諦めてきたアイデアを、“スマートフォンの時代”ならば掘り起こすことができるかもしれないということだ。
クラウド型サービスの発展によるサービスコストの低下と、より自由度の高いアプリケーション開発の枠組み、それにスマートフォン比率の増加やアクティブな利用者比率の高さなど、以前に企画した時とは異なる環境が今はある。
世の中で注目され、その後、ヒットする商品には、画期的な新技術や新コンセプトが盛り込まれていることももちろんある。しかし、その一方で、技術的な新味がなくとも、実装のアプローチを変えたり、利用者の環境変化によって、まるで全く新しい技術に基づいて作られたかのような評価を得ることもある。
エンジニアの方々とミーティングを持つと「アレは技術としては昔からあるもので……」という話を聞くことがある。要は、“その製品はたまたま運良く、世間一般から認知されただけで、先進性はあまりない”ということが言いたいのだと思う。そう言いたい気持ちも分からないではない(ちなみに、多くの場合、そうした話をする人は優秀なエンジニアだったりする)。
“エンジニアが斬新”と感じるものよりも“利用者が斬新”と感じるものを。研究開発という目的ならば、前者に取り組み、次の、あるいは次の次の世代のために先見性を磨くべきだが、製品戦略を練る上では、何よりも利用モデルや今の世の中におけるトレンドを見ながら、既存の技術の応用について再検討し、軸のズレを修正することも重要だと筆者は思う。
本田雅一(ほんだ まさかず)
1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。
Twitterアカウントは@rokuzouhonda
近著:「インサイド・ドキュメント“3D世界規格を作れ”」(小学館)
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