“かんばん方式”にまつわる誤解・曲解・勘違いこうすればうまくいく生産計画(6)(3/5 ページ)

» 2009年02月26日 00時00分 公開
[佐藤知一/日揮@IT MONOist]

かんばん方式の使い方

かんばんの使い方は、次のような手順に従う。

  1. 後工程側の現場に、使用する部品が供給される。部品には(小物であれば箱入りになっており)「引き取りかんばん」がセットされている
  2. 後工程側は供給された部品を用いて加工・組み立て作業を行う。使うときには「引き取りかんばん」を外す
  3. 「引き取りかんばん」を持って、前工程側の置き場に部品を取りに行く
  4. 置き場にある部品を引き取る。このとき、あらかじめ前工程側が部品にセットしていた「仕掛けかんばん」を外し、自分が持ってきた「引き取りかんばん」をセットする
  5. 後工程側は、その部品を自分の工程に持っていき、現場に供給する → 1に戻る
  6. 前工程側は、外れた「仕掛けかんばん」に指示された数だけ、部品を製造する
  7. 前工程側は「仕掛けかんばん」を製造した部品にセットして、部品置き場に置く → 4に戻る

 引き取りかんばんをきちんと使うためには、守らなければならないルールがある。例えば、

  • 引き取られた分だけ、必ず前工程で生産する
  • 生産量と品種が平準化されている
  • 100%良品である
  • 現物表示(かんばんと現物は常に一体で動く)

などである。

 このように、かんばん方式をうまく使えば、ちょうど消費された分だけ補充生産する(“作り過ぎ”をしない)形で、すべての工程がきれいに同期化され制御されるようになっている。また、かんばんの枚数が仕掛かり在庫量を表しているから、現場の状況を見ながら、枚数をできる限り減らしていく。もちろん、そのためには、段取り替え時間を極度に短縮化し(シングル段取り)、作業者も多能工化・多工程持ちができるようになっていなければならない。サプライヤ側は100%良品を必要数量だけ、指定時間にきっちり納入する(トヨタでは原則としてサプライヤを信じ入荷検品はしない)。こうした努力すべてが相まって、初めて本当の意味のジャスト・イン・タイム生産になる。

かんばん方式と生産計画

 ところで、かんばん方式は生産スケジューリングの手法なのだろうか? 言葉本来の意味では、かんばん方式は製造指示の伝達手法と中間在庫のコントロール手法であって、スケジューリングではない。何をいつ作るかを、あらかじめ決めるのがスケジューリングである。かんばん方式はそのような意味での計画手法ではあり得ない。かんばんとは同期化された流れ生産における自立神経のような働きをするものである、と考えるべきであろう。「かんばん方式は生産計画やスケジューリングを不要にする」とも、しばしば主張される。「需要なんて神様じゃないんだから誰も先を読めない。だから、必要なものを必要なときに必要なだけ作れる能力を持つべきだ」と。

 かんばん方式がトヨタ生産方式(TPS)の中核的技法として生まれ、わが国の製造業に巨大な影響を与えたことはいうまでもない。かんばん方式はJIT生産方式とも呼ばれ(厳密には両者はイコールではないが、しばしば同じ意義で使われている)、一種の経営思想にまで発展した。JIT生産とは、すべての生産工程が、必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給する、という生産システムである。これにより生産上のムダを排除し、徹底したローコストのオペレーションを可能にすることを目的としている。

 ところで、かんばん方式があまりにも広まったため、しばしば誤解されていることが2つある。まず、かんばん方式は完成している、という誤解。実際には、トヨタのかんばん方式はまだ日々改善進化しており、ちっとも完成していない(少なくとも彼らはそう信じているはずだ)。そして「かんばん方式=トヨタ生産方式」だという誤解。元町工場(愛知県豊田市元町1番地にあるトヨタ自動車の生産工場)に見学に行くと、トヨタ生産システムを支える2つの柱として「かんばん」と「ニンベンの付いた自働化」が説明されるから、誤解もまあ無理もない。しかし、かんばんは現在のTPSを支える1つの技法にしかすぎず、もしこれを超える方式が何か出てきたら、御本家トヨタは喜んでかんばん方式を捨てるだろう。

 では、トヨタ生産システムを支える中心思想は何なのか? 筆者は、同社の技術トップの口から直接その答えを伺ったことがある。それは平準化なのだ。

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