“かんばん方式”にまつわる誤解・曲解・勘違いこうすればうまくいく生産計画(6)(4/5 ページ)

» 2009年02月26日 00時00分 公開
[佐藤知一/日揮@IT MONOist]

「平準化」が支えるかんばん方式

 ご存じのとおり自動車工場の最終組み立て工程は、ライン生産になっている。1分間に1台ずつというタクト・タイムで、車が流れていく。車は同一モデルでも多種多様なオプションが存在するから、最終工程に投入されるボディは、すべて仕向先の需要(確定仕様)とひも付けられていなければならない。従って、この最終ラインに何をどの順序で流すかという「投入順序計画」が重要になる。日時単位のスケジューリングである。

 トヨタでは、同一車種の注文が多数あっても、混流ラインにわざわざ車種をばらして投入する。「平準化」のためだ。ラインで使われた部品はかんばん方式に従って、上流工程で順に引っ張られていく。このとき、上流工程側での部品製造指示が特定の種類に固まらず平準化されるよう、数理計画法まで使って投入順序を制御している。なぜなら、生産性を妨げ製造コストを最も上げるものは、需要のブレ(乱高下)だと知っているからだ。

 外注先への引き取りかんばんによる発注は、商取引上では「分納の指示」の位置付けになる。月間・週間の総発注量は、別途「先行内示」によって与えられるのが原則だ。自動車会社は、自社の基準生産計画を基に、部品表展開して先行内示量を計算し、サプライヤに開示する。問題は、この内示にある。

 自動車トップ3社の工場を見た知人のコンサルタントは、「トヨタはBTO(Build to Order:受注生産方式)、日産はかんばん方式、ホンダはロット生産」という言葉でその特徴を説明する。トヨタは生産計画に基づいて部品やサブアッセンブリを用意しておき、実需に従って組み立て生産する。他社も、実需に従って組み立て生産し、かんばんと同等の技法で部品類を補充生産する。違いは、事前の生産計画の有無、ないしその確定度合いだ。

 ここで、自動車業界の特徴を思い出していただきたい。自動車は消費者の手に渡ると、必ず国交省陸運局に登録しなければならない。つまり、最終消費者への販売量が官庁統計として正確に分かるのである。需要の季節性も少ない。しかも自動車業界のサプライチェーンは図2のように、販売チャネル(ディーラー)もサプライヤも、メーカーを中心に系列化されている。そこで、最終需要を基にメーカーだけが「生産計画」を立てる。サプライヤは、内示とかんばんで統制される形になっている(だからサプライヤ側は生産計画が不要とされる)。

図2 自動車業界のサプライチェーン 図2 自動車業界のサプライチェーン

 トヨタは、この基準生産計画が平準化され安定していて、他社よりブレないのである。それどころか、トヨタでは販売計画へのコミットメントと引き替えに、販売側に一定数量の製品引き取り義務を課すことさえしている。あるOBは「車種も値段も納期も客のいうままに売るのなら、誰だってできる。そんな営業は仕事をしてないのと同じことだ」とまでいっていた。

 お分かりだろうか。かんばん方式がうまく働く前提条件は、安定した生産計画に従い、平準化された需要に基づいて動くことなのだ。もし一切の生産計画なしに、確定受注によって組み立てし、部品は補充生産する会社があったとしたら、その会社はどうやってサプライヤに先行内示量を出せるだろうか? そんなところで無理やりかんばんを動かしたら、部品サプライヤが疲労するばかりである。

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