――エンジンの吸気部にサージタンクが付いていましたけれども、過給器にせずにあえてサージタンクにしたのには特別な理由があるのですか?
矢野さん:サージタンク自体は大会のレギュレーションでどこも付けているのですが、あえて過給器にしなかったのは、過給器ではどうしても重量がかさんで軽量化できないのと、インタークーラーなどの部品点数が増えるうえに、それぞれに強度計算をしなければならないというデメリットがあったからです。
それでNA(自然吸気)をあえて選択するというふうにしたんですが、サージタンクにはある仕掛けがしてありまして……。
――どんな仕掛けですか?
矢野さん:それはちょっと……。サージタンクの中はバルブの開閉に伴って圧力波が行ったり来たりするんですね。その現象を利用して吸気効率を向上し、トルクアップを狙った仕組みなんです。
図で示すと、こんな形の部品が付いていて(図面を示す)……、あ、コレってトップ・シークレットなんですよ。記事には書かないでください。お願いです〜(というわけで、残念ながら仕掛けの図面はお見せできません!)。
――(……図面を見ながら)へー、なるほどー。これはアイデアの勝利ですね! ちなみにエンジンは何を使用しているのですか?
矢野さん:ヤマハの「YZF-R6」というバイクのエンジンを使用しています。ほかの大学では軽自動車の660ccエンジンをボアダウンして使っているところもあるのですが、軽自動車のエンジンだと耐久性重視でどうしても重くなってしまいます。
逆にR6のエンジンはスーパーバイクなどのレース用に開発されていて、軽いし、スペックも適しているということもあります。
――費用的にはどうですか。
泉さん:「2万5000ドル以内で作る」という制約があります。毎年最初の営業日のドル円換算レートで上限額を算出するというルールがあって、その範囲内で収めるようにしています。年によって円が強かったり弱かったりする点にも気を使います。
1台を大体200万円前後で作ります。この金額は、マンアワー込みで計算します。この大会の狙いの1つとして、「学生にコスト感覚を持ってほしい」というのがありまして、例えばエコラン(*ホンダのエコノパワー燃費競技全国大会。1リットルのガソリンでどれだけ走れるかを競うレース。毎年開催)の場合だと費用制限がないので「お金のあるところが強い」ということがあるんですが、学生フォーミュラはその点では平等だと思います。エコランですと、お金があるチームが有利になってしまいますからね。
――分業化も徹底しているようですし、システマチックな印象を受けますが。
小野さん:大きく分けて製作班と企画班に分けていて、製作班はさらにそこからシャシー、パワートレイン、エアロデザインと分かれています。ほかのチームだと電装系を独立してやっているところもあるようですね。企画班はもともと1つだったんですが、広報、渉外、総務に分割して文系学生でも参加しやすいようにしています。理系と文系の比率は6:4、女性メンバーも31名中7人で、これはほかの大学と比べて突出した値だと思います。
――Webサイトも、きれいに作られていますね。
柴崎さん:今年の大会のWeb審査で1位でした。ニュースリリースもこまめにアップしていますし、あとはデザインが見やすいということでほかの大学からも高く評価されています。スペシャリスト志向で、妥協しなかった成果だと思いますね。
スポンサーさんが見ていることを念頭に、Webサイトを見れば僕たちの活動がすべて分かる、そんな広報媒体としてのWebサイトを強く意識しています。僕たちの活動自体が仮想企業なので、Webサイトはブランドイメージを発信するうえで非常に重要です。「きれいに」「見やすく」「分かりやすく」「イメージを落とさないように」。配色も上智カラーを念頭に黒と赤を効果的に使用しています。
企業に新しく「スポンサーになってください」とお願いするときに、「ぜひWebを見てください」と話すんです。すると「ああ、上智はしっかりやっているんだね」と活動を理解していただいて、それをきっかけに新規スポンサーになっていただいた企業が数社あります。だからWebの役割は重要なんですね。そういったときに、Webがショボいともうどうしようもないですよ(笑)。実際に、実験室に来ていただくというのもなかなかできませんし……。
――車製作の技術面以外においても充実していて、総合力の高さを感じますね。
――ズバリ、これからの課題と目標は?
小野さん:学生フォーミュラで3連覇を達成したチームは海外大会を含めていまだかつてなくて、来年は是非とも前人未到の3連覇を実現したいですね。そのためにも技術の継承ということをしっかりしていきたい。昨年優勝したチームが、上の代が抜けて次の年は順位を落としたという例はたくさんあって、3連覇は甘くないな、と思っています。プロジェクトリーダーになってからは、特に周囲とのコミュニケーションを心掛けていて、リーダーになる前と比べて3倍以上話すようになりました。
クルマ作りというと「男臭い」「ドン臭い」というイメージがありますが、僕たちのチームは、例えば小室さんが活躍しているように、女性でも、クルマ自体に興味がなくてもチームワークを組める強みがあります。
小室さん:実は……、上智大に入る前、服飾専門学校で勉強していたんです。「車が好き」というよりは、理系科目とものづくりが好きでした。服飾も、ものづくりですし。ここの大学に入学してすぐ、このサークルを見つけると、迷わず入会しました。男子と比べて腕力はないし設計は大変だけど、頑張っていますよ。
小野さん:エアロデザインは、女性の小室さんが担当しているだけあって男にはないセンスを感じますね。単にクルマを作るだけじゃない、作業を通じてメンバーそれぞれの底力を上げていく、そんなチームを作りたいと考えています。理系だけじゃない総合力で、“Prove to the World”、世界に通用する成果を挙げたいですね。
一見すると、どこにでもいるフツーの学生ですが(失礼!)、チームとマシンについて語りだすと途端に目に力がこもります。自分の仕事に誇りを持っている、大人の目です。
3次元CADを駆使して解析し、女性の感性でエアロデザインをし、文系学生も縁の下の力持ちとしてチームを支えます。自動車産業もさまざまな分野、技術によって成り立つ“総合産業”でありますが、上智大学 Sophia Racingにもまさしく、そのイメージが当てはまるでしょう。それぞれのスペシャリストたちによる、ハイレベルなチームワークが、学生フォーミュラ大会2連覇への原動力でしたね!
斉藤円華(さいとう まどか)
1973年生まれ。旧車、自転車に強いライター。現在Webサイト「エンスーの杜」で連載コーナーを持つほか、雑誌「サイクルスポーツ」「オールドタイマー」などで執筆中。
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