日本の製造業で、組み込みエンジニアの能力低下が問題視されている。若手エンジニアに継承すべき“真の能力”とは何だろうか?
初めまして、フリー・アーキテクトの中根隆康です。フリー・アーキテクトというのは聞き慣れない言葉かもしれませんね。フリーは、自由に動けることを意味します(現在、無職)。アーキテクトという言葉はどこかで聞いたことがあるかもしれません。うまくいっていない組み込みシステムのプロジェクトを、何とか良い方向へ持っていく、技術サポートやプロセスサポートをする人間だと思ってください。勝手に名乗っているだけですので、世の中から認められているわけではありません。
このコラムは組み込みシステムに携わって数年の人たち、これから組み込みシステムにかかわっていこうとしている人たちに読んでもらいたいと思っています。また、ベテランの組み込みエンジニアの人たちにも少し昔を思い出してもらい、新人エンジニアの育成に役立ててもらえたら、とも思っています。もともとがソフト屋なのでソフト寄りの話題になりますが、ハード屋さんには、ソフト屋はこんな考え方をしているのかと参考にしてもらえたらよいかと思います。
さて、「どんな組み込みエンジニアになりたいですか?」という題目から、皆さんはどんなイメージを持つでしょうか。そもそも、組み込みエンジニアというか、組み込みシステムとはどんなものなのでしょうか。ちょっと周りを見渡してみても、いろいろなところに組み込みシステムらしきものがあるでしょう。家電品では、テレビ、ビデオ、オーディオ、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、電子レンジ、炊飯器、風呂の湯沸かし器、など。自動車、電車、航空機などは組み込みの固まりですし、電気のあるところには至るところに組み込みシステムが存在していますね(電気もマイコン制御で流れているのは、あまり知られていません)。
あちこちで論議されているように、私の周りでもよく「何もかも組み込みシステムと一言で片付けるのはおかしいのでは? もっと細分化すべきでは?」という意見が聞かれます。確かに多種多様になったいまの組み込みの世界では、言葉の定義として広過ぎるのかもしれませんが、本当の意味での組み込みエンジニアは、どの分野にいようと“組み込みエンジニア”でよいと思っています。かくいう私もいろいろな分野を経験してきましたが、「基礎知識さえあれば、専門知識は後から勉強しても何とかなる」が私の持論です。
ところで、ここ数年、組み込みソフトウェア開発のエンジニアが不足(7万人不足?)していて、エンジニアの育成が必須だと各界で叫ばれています。産学官協同での人材育成の動きもかなり進んでいますし、あちこちでセミナーが開かれるようにもなってきました。人材派遣会社などでは、「未経験の人でも教育して組み込みエンジニアとして使えるようにします」など宣伝していたりします。そんなところのカリキュラムを見ると、
なんて夢のようなことが書かれています。これで本当に組み込みエンジニアができてしまうくらいなら、どこの企業でも組み込みエンジニアが足りないなんていわないはずです。
ある機関が行った「組み込みエンジニアを採用するときに重要視するのは何か」というアンケートの結果では、
だそうです。5番目が専門知識なのは、当然ですが「組み込みの基礎知識は、持っているのが前提」ということですね。では、組み込みの基礎知識とはどんなものでしょうか。何年も組み込みシステムにかかわっているエンジニアの方からは、「いまさら何をいっているんだ」と怒られそうですが、われわれベテランが常識だと思っている基礎知識は、果たして新人のエンジニアに伝わっているか、もう一度見直してみませんか。また、IT系から組み込みの世界へ入ろうとしている人や新人に、この基礎知識を少しでも分かってほしいと思います。その後で、コミュニケーション能力やドキュメント能力などを伸ばしていってもらいたいのです(基礎知識がないとコミュニケーションはできませんよ)。
もう1つ、「望まれる組み込み技術者(像)」というアンケートの結果がありましたので参考までに載せておきます。
ここまでくると、スーパーエンジニアですね。エンジニアだけでなくマネージャもこなせといっているようですが、これに関していまはコメントしません。
初回でまとまりのない話になってしまいましたが、自分が組み込みエンジニアとして最初にどこを押さえていけばよいかのイメージを持っていただけたでしょうか。
次回からは、組み込みシステムの中身について書いていきますが、ご意見、ご要望などをできる限り取り込むつもりですので、下記までメールでご連絡ください。(次回に続く)
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