より手軽な建物のデジタルツイン活用を、リコーがAIソリューションの実証実験開始:人工知能ニュース
リコーは点群データを基に建物内部の空間を手軽にデジタルツイン化するための「空間データ作成・利活用AIソリューション」の実証実験を開始する。
リコーは2023年9月25日、建物内部の空間を手軽にデジタルツイン化して利用するための「空間データ作成・利活用AIソリューション」の実証実験を開始すると発表した。実証実験は2023年10月2日から開始した。
設備情報をデジタル空間で一元管理
今回実証を行うAI(人工知能)ソリューションは、建物内部を撮影した点群データと360度画像をつなぎ合わせ、建物の維持管理業務にとって最適な形にデータを構造化し、デジタル空間上で再現するものだ。再現したデータはWebブラウザ上で3Dビューイングが可能となる。
AIソリューションを活用することで、設備の老朽化の度合いや、人流、エネルギー消費量などをデジタル空間上で一元的に把握できるようにする。初期の主要ユーザーとしては、建設業界や建物維持管理業務の従事者などを想定している。
ユーザーは俯瞰視点に加えて、3Dビューイング機能によって視点を移動させながらデジタルツイン空間内を見て回ることができる。デジタルツイン空間上で特定箇所の採寸などを行える上、建物内の分電盤や消火器、配管といった設備情報が記載された台帳と連携することで、設備をクリックすると製造メーカーや過去の点検履歴などを確認することも可能だ。
さらに、リコーが開発したAI技術を組み合わせることで、建物の維持管理に必要なさまざまな機能やソリューションを提供する計画もある。例えば、データ整備のために撮影データから人間などの不要物を自動検出して除去する機能や、映り込んだ顧客企業名などの機密情報を検出して削除する機能などを構想している。
デジタルツイン空間内の壁や床、天井、梁(はり)、ドア、各種設備などを自動的にAIが認識し、カテゴリー別にセグメンテーションした上で、CADで扱えるような軽量な3Dデータに変化する機能も提供する予定だ。この他、熟練者がデジタル空間上で行った計測調査の結果や設備機器などの搬入経路の計画策定を基に、これらの業務を支援するソリューションや、台帳の設備情報とデジタル空間上のデータのひも付けを自動化する機能なども構想中だという。
これらの機能によってユーザーは現地に赴くことなく、建物の遠隔管理や採寸、設備更新の検討などを行えるようになる。建物の維持管理コストの見積もり精度を向上させる効果も見込める。将来的には建設業界に加えて、製造業界や物流業界の拠点、商業施設などにも展開する予定だという。
また、今回の実証実験では使用しないものの、リコーは撮影用デバイスの開発を進めている。3Dデータと点群データを即座に取得できる上、細長い形状で棒先に取り付けられたデザインのため、配管間など狭い空間の画像データも撮影しやすいのが特徴だ。デバイスを活用することで、ユーザー自身がこのデバイスで建物内部を撮影し、改修後などに建物の情報を自ら定期更新できるようになる可能性がある。
従来の建物管理は、建物内を歩き回って記帳したデータを基に熟練者が整理、分析、判断を下すという方式が多かった。こうした方式では時間もかかる上、データの正確性が必ずしも担保されない。さらに、熟練者の経験や暗黙知を社内で共有し、継承することも難しい。このためBIM(Building Information Modeling)の導入を検討する企業も多いが、リコー 先端技術研究所 Optical Data Stream PT エキスパートの齊所賢一郎氏は「導入に際してのコストや手間の大きさなどが課題となっていた」と指摘する。今回のAIソリューションや開発中のデバイスはこうした課題に解決に寄与すると見込む。
実証実験はAIソリューションの有償トライアルという形で実施する。3D/点群データの撮影やデータ処理、Webブラウザ上でのデジタル空間の閲覧が可能だ。要望に応じて、デジタル空間のデータのBIM化にも対応するという。
齊所氏は「建物の管理情報と熟練者のノウハウや暗黙知などを合わせて、デジタル空間上に詰め込む。建物の管理者にとって、デジタル空間をこれまで以上に手軽に作成、活用できる環境づくりを目指している。これらに必要なAI、技術を当社自身がワンストップで提供できる点が強みだ」と説明した。
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