CNFの応用開発と普及を後押し、NEDOと産総研が安全性評価書を公開:材料技術
NEDOと産総研は、2020年から進めてきた「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発」の一環として、セルロースナノファイバー(CNF)を取り扱う事業者の自主安全管理や用途開発の支援を目的とする文書「セルロースナノファイバーの安全性評価書」を公開した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)と産業技術総合研究所(以下、産総研)は2022年12月5日にオンラインで記者説明会を開催し、両者が2020年から進めてきた「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発」の一環として、セルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano Fiber)を取り扱う事業者の自主安全管理や用途開発の支援を目的とする文書「セルロースナノファイバーの安全性評価書」を公開したことを発表した。
セルロースナノファイバーの安全性評価書は、産総研のWebサイトからダウンロード可能だ。また、2022年12月7〜9日に幕張メッセで開催される「第2回サステナブル マテリアル展」のNEDOブース、同期間に東京ビッグサイトで開催される「エコプロ2022」の企画展「第6回ナノセルロース展2022」のナノセルロースジャパンブースにおいて、セルロースナノファイバーの安全性評価書の展示、配布が行われる予定だという。
「セルロースナノファイバーの安全性評価書」とは
セルロースナノファイバーの安全性評価書は、CNFの安全性情報について、2020年3月にNEDO、産総研、王子ホールディングス、第一工業製薬、大王製紙、日本製紙が共同で公開した「セルロースナノファイバーの検出・定量の事例集」「セルロースナノファイバーの有害性試験手順書」「セルロースナノファイバー及びその応用製品の排出・暴露評価事例集」の3文書の内容に、炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発によるこれまでの成果や取り組み状況、国内外の論文情報などを加えて、とりまとめたものとなる。
第1章は「本書の構成」。第2章の「遺伝毒性の評価」では発がん性や遺伝的障害のスクリーニング試験である遺伝毒性試験の結果について、第3章の「中皮腫の評価」では繊維状物質で懸念される中皮腫についての知見がまとめられている。そして、第4〜6章では吸入暴露、経皮暴露および経口暴露による影響について、第7章「排出・暴露の評価」では作業環境調査や模擬試験など、CNFの排出/暴露に関する評価事例を紹介し、注意すべきプロセス、対策と管理、計測法について記されている。第8、9章では環境への影響として水生生物への影響、生分解性に関する知見がまとめられ、第10章で各章の結果を総括している。
CNFなどのナノ材料は市場化に当たり安全性の確認が求められる
CNFは、地球上で最も多く存在する炭水化物であるセルロースをナノ化して得られる植物由来の高機能バイオ素材であり、軽量、高強度、高弾性、低熱膨張率、透明性といった特徴を有する。また、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収/固定した木材などが原料であることから「カーボンリサイクルの一端を担う素材としても期待されている」(NEDO)という。
こうした期待の一方で、新しい材料が社会実装され、普及していくためには、安全性の確認が重要となる。万一、安全性に関する情報が不足していると、風評被害や他の材料との競争で不利になるケースも考えられる。特にナノ材料の場合には、市場化に当たり安全性の確認を求める国際的な流れもある。
2020年3月に公開した3文書では、3種のCNFを主対象とした安全性評価手法と評価結果がまとめられているが、「CNFの応用開発や普及をさらに促進するには、これまでに行われていない評価項目を含む多様なCNFに関する安全性評価の実施や、国内外における最新の論文などの情報集約が求められていた」(NEDO)。
このような背景の下、NEDOと産総研は、炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発プロジェクトにおいて、簡易迅速な吸入影響評価手法の開発と評価、中皮腫発生の検証、生態影響の評価、多様性や実用化に応じた排出・暴露評価など、CNFの安全性評価について継続して取り組んでいる。ここでの評価結果や取り組み状況などの成果が、セルロースナノファイバーの安全性評価書にも生かされている。なお、「CNFの安全性評価の取り組みは継続中だが、現時点で安全性が心配されるような結果は得られていない」(NEDO)という。
また、今後の予定については「さらに多様なCNFに関して吸入影響や排出/暴露の評価を進めるとともに、情報が少ない中皮腫や生態影響の評価も進め、それらの評価結果を2024年度に成果文書としてまとめる予定だ。NEDOは産学官連携のハブ的な位置付けとして機能し、素材メーカー、消費財メーカーなどの適切な自主安全管理を支援して、CNFの応用開発と普及を後押しする。CNFの社会実装、市場拡大を早期に果たすことで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献したい」(NEDO)としている。
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