わずか2nm厚の超小型トランジスタで分子の認識に成功:医療機器ニュース
東北大学は、厚さ2nm、縦横1μm程度の超小型半導体薄膜による分子認識センサーを開発した。センサー表面に微量の分子を吸着させ、光応答電流を測定することで分子を検出する。
東北大学は2021年8月25日、厚さ2nm、縦横1μm程度の超小型半導体薄膜による分子認識センサーを開発したと発表した。このセンサー表面に、π電子共役系分子の銅フタロシアニン(CuPc)分子を吸着させた際の光応答電流を測定することで、分子の検出に成功した。産業技術総合研究所との共同研究による成果だ。
分子には、最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)と呼ばれる2種類の軌道が存在し、それらのエネルギー差(ΔE)は分子を特徴づける重要な物理量となる。分子がΔEに等しいエネルギーを持つ光を吸収すると、HOMOには正電荷を持つ正孔が、LUMOには負電荷を持つ電子が生成される。この現象を利用して、電気信号を検出した際の光エネルギーから各分子のΔEを求めることで、分子を特定できる。
今回の実験では、二硫化モリブデン(MoS2)3層からなる原子層薄膜を用いて、MoS2電界効果トランジスタを作成。これに光を組み合わせることで、特定のエネルギーを持つ光を照射した際の光応答電流を測定するという手法により、分子の性質を検出した。
認識するターゲット分子には、π電子共役系分子として注目されるCuPc分子を採用し、MoS2原子層薄膜に吸着させた。この薄膜に1.76eVの光を照射すると、表面にCuPc分子を吸着させた場合のみ光応答電流が観測できた。このことから、分子を吸着させたMoS2原子層薄膜に分子特有のエネルギーを持つ光を照射すると、光応答電流が発生することを示せた。
気体や液体中の分子を特定するためにさまざまな手法が用いられているが、いずれも大型の装置を必要とする。超小型のセンサーで簡単に分子を検出可能になれば、ウェアラブルデバイスや体埋め込み型デバイスとして体内の微量化学物質を常時モニタリングし、疾患の予防や早期発見、生活環境下に存在する有害な揮発性有機分子、二酸化炭素などの高感度検出が可能になるとしている。
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