京都大学らは、ヒトの便検体を指標に、ヒト消化管常在細菌の一種であるStreptococcus salivariusが、スクロース誘発性肥満を抑制するバイオマーカーになることを発見した。
京都大学は2025年2月3日、ヒトの便検体を指標に、ヒト消化管常在細菌の一種であるStreptococcus salivarius(S. salivarius)が、スクロース(砂糖)誘発性肥満を抑制するバイオマーカーになることを発見したと発表した。肥満や糖尿病などの代謝性疾患の新たな予防や治療法につながることが期待される。東京農工大学との共同研究による成果だ。
難消化性菌体外多糖(EPS)は、有益な植物繊維様物質として知られている。約500人のヒト健常者と肥満症患者の糞便を用いて、ヒト腸内細菌由来EPS産生菌を探索したところ、5菌種が同定された。そのうちS. salivariusが、マウス糞便からは検出されない一方でほとんどのヒト糞便から検出されることや、ヒト腸内S. salivariusの占有率と短鎖脂肪酸濃度がBMIと負の相関を示したことから着目した。
S. salivariusがスクロースを基質として産生するEPS(SsEPS)の構造解析により、SsEPSが宿主の酵素では消化できない植物繊維様物質である難消化性多糖であることが明らかとなった。
肥満モデルマウスを用いた実験では、SsEPSを長期間摂取したマウスでは対照群と比較して、体重増加が抑制され、宿主の腸内が変化しSsEPSを利用できるヒト腸内優先菌種と短鎖脂肪酸濃度の増加、血糖値など代謝パラメーターの改善が認められた。一方、短鎖脂肪酸を認識する受容体の欠損マウスでは、SsEPS摂取における効果が認められなかった。
これからの結果から、SsEPSにおける代謝機能の改善は、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が関与していることが明らかとなった。
また、無菌マウスにSsEPS産生菌または非産生菌を移植しスクロースを長期的に摂取させると、SsEPS産生菌を移植したマウスは、非産生菌移植マウスよりも腸内でEPSを産生した。SsEPS産生菌と資化菌を移植すると、スクロース誘発性の肥満誘導における体重増加の抑制、糞便中の短鎖脂肪酸濃度の増加、血糖値などの代謝パラメーターの改善が認められた。
これらの結果から、S. salivariusが摂取した炭水化物中の過剰なスクロースを腸内でEPSに変換することで、宿主の吸収を抑えるだけでなく、腸内環境を改善して、スクロース誘発性肥満を防いでいることが明らかとなった。
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