パーティションは、建物本体の構造部材ではないため、建築壁よりは建築関連法令上の規制は比較的少なく、構造耐力や耐震設計に関する法令要件は限定されているという。その一方で、防火区画や避難経路の形成、内装制限など建築基準法に関わる役割を担うことがある。
しかし、東日本大震災の際には、パーティションが転倒する事故が生じ、業界内では耐震性能に対する危機意識が高まった。これを受け、コマニーは自発的に、天井との関係性に着目し、震度7でも耐えられる工法を考案した。金沢工業大学との共同研究で、天井との接続手法による耐震性を立証し、それを公開すべく特許化した。現在は「Syncron」という商標で自社の製品群として掲載している。
コマニーでは、これを自社の差別化のポイントとしてのみ活用するのではなく、業界全体の底上げにつなげていくことを考えたという。特許をオープン化し、活用を促すことで、高耐震の製法を広める狙いだ。
安全性を担保するため、業界標準を提案するのではなく、特許を取り耐震工法をオープンにすることで、高耐震に対する意識を広めるという手法を取ることは、特許の使い方として非常にユニークな取り組みだ。パーティションの耐震性能に関する法令要件が限定される中で「パーティションはあくまで建築物の中の設置物であるからこそ、天井への接続部分に耐震システムを導入する必要がある」ということを、特許を通じて世の中に発信したのだともいえる。
パーティションという製品から「間づくり」への転換と聞くと、「モノからコト」「ソリューション事業への転換」と捉えてしまいがちである。しかし、コマニーの事業説明や「間づくり研究所」の話を伺うと、単純にそう分類することには違和感が残る。
インダストリー4.0以降、製造業は「モノづくり」から「データを活用して顧客価値を継続的に提供するソリューション」に事業形態を変化させる動きが目立つ。その際、「製品」は目的から手段に変わる。最近は、製品に関するあらゆるデータを収集し、設計から販売、保守までのあらゆるフェーズで活用しようという流れが強い。しかし、ソリューションを志向しすぎれば、製品とサービスが分離し、デジタル上のサービス提供そのものが目的化する可能性もある。逆に、自社の製品に過度に固執すれば製品の使い方を強要しすぎ、ソリューションとならない。こうした一般的なソリューション転換企業と同じカテゴリーにコマニーは入らないと考える。
顧客が望む「間」とはどういうものか、そこに製品(パーティション)をどう入れることで、そうした「間」をどう実現するのか、顧客にとって働きやすい「間」をどうしたら作ることができるかを純粋に考え、パーティションの活用の有無にこだわらず、心地よい「間」を提供しているのである。コマニーが変えたのは、売る「モノ」だけではない。顧客が求める価値から逆算して、自らを「パーティションを作る会社」から「間をつくる会社」へと再定義したことこそが、同社の「X」なのではないだろうか。
1991年に東京大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。経済産業省では日本の魅力を発信するクールジャパン政策や、日本のモノづくり産業支援政策などを推進。特許庁時代には、商標や意匠を活用したブランディング戦略や、技術情報などをベースとした知財戦略を支援した。その後、石川県の副知事となり、デジタル化、グリーン化などに取り組んだ。2025年から政策研究大学院大学 特任教授、金沢工業大学 産学連携室 客員教授を務める。
1988年に九州大学大学院を修了後、三菱電機入社。研究所にてリアルタイムネットワークの研究開発に従事。また、名古屋製作所でCC-Link IEの開発やe-F@ctoryの事業企画などを担当。情報技術総合研究所長、FAシステム事業本部役員技監として研究開発を統括した。2023年から早稲田大学研究戦略センター教授。ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)WG1共同主査(2022年度)、一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)理事などを務める。博士(工学)。
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